東京新聞によると「委員会を傍聴した都内の派遣社員の女性は『三年後には辞めてもらうと言われている。一人一人の生活がかかっていることを、賛成した議員はどう考えているのか』と話し、泣き崩れた」そうですが、これは逆です。
今は専門26業種についてだけ派遣社員を認め、無期限に働けることになっているのに、今度の改正では派遣の対象を全業種に広げた代わり、すべての業種で3年で雇い止めという労働基準法の有期雇用の規定が適用されます。これは今に始まったことではなく、すべての有期雇用は同じです。
だからこの泣き崩れている女性(どうせ東京新聞の作文でしょうが)が怒るべき相手は、厚生労働省です。派遣社員も含めて、すべての有期雇用を無期限にすればいいのです。ところが厚労省は労基法を変えないで派遣法だけを変えたので、こういう変なことになったのです。
なぜ役所は、有期雇用を3年までと規制してるんでしょうか。それは「無期限の契約が増えると、正社員の仕事が非正社員にうばわれる」と労働組合が反対しているからです。でもこうして正社員以外の雇用を制限したら、正社員はふえるでしょうか?
残念ながら、現実に起こっていることはその逆です。請負契約の規制がきびしくなったら派遣社員に、そして派遣社員の規制がきびしくなったら(何も規制のない)パート・アルバイトになっただけです。図のように派遣社員などの規制が強化された民主党政権の時代から、正社員の比率は5%ポイントもへって62%になりました。
完全失業率と正社員率の推移(出所:労働力調査)
おかげで月給ベースのサラリーマンがへって時給ベースの非正社員がふえ、賃金が下がったので雇用がふえ、失業率が下がったのです。これが政府が唯一の「アベノミクスの成果」としてほこっている雇用回復の実態です。
今回の規制強化で、26業種の中で特に多いSE(システム・エンジニア)は大きな影響を受けます。彼らはシステム開発や保守のために企業に常駐して技術を蓄積し、給料も普通のサラリーマンと変わりません。それを3年でクビにしてしまう厚労省は「ハケンなんて社員じゃない」と思ってるんでしょう。
「正社員」という変な制度があるのは日本だけで、英語でもseishainとしか表現できません。これは戦時中に労働者を「産業戦士」としてお国のために働かせるためにできた制度で、そのころ労働組合も今のような企業別の「一家」になりました。
戦後70年もたって「一家」なんかなくなったのに、いまだにそれを守っているのは、「家長」の正社員のおじいさんの既得権を守るためです。それと一緒になって乱闘騒ぎまで起こす民主党は、労働者の味方ではなく、労働組合の味方ですね。