スカイマークの開ける風穴

岡本 裕明

民事再生手続き中のスカイマークの動きから目が離せなくなってきました。大口債権者であるイントレピッド社がついにデルタ航空を引き連れて債権者交渉に臨むからであります。更にイントレピッド社はデルタ航空と組むことで弁済率を0.5%程度引き上げ、全日空の5%以上を実質で上回る提示をすることになります。

私がなぜ注目しているかといえば民事再生手続きにおいてスポンサーが二社で競い合うというスタイルがあまり例を見ないばかりでなく、仮にイントレピッド/デルタ航空が選ばれた場合、羽田空港に外国航空会社が乗り入れるという大きな風穴が開くからであります。

8月5日の債権者会議でその行方が見えてきますが、一発で決まるかどうかは未定であります。というのはスポンサーと選定される場合二つの条件を同時に満たす必要があります。一つは債権額の過半数、もう一つは債権者の過半数であります。イントレピッド社は債権額の約38%を抑えており、あと大口を1-2社、味方につければ50%越えは容易であります。債権額2位のエアバス社以下、ロールスロイス、CITならばあと一社が同意すれば勝負あり、になります。CITあたりは既にイントレピッドになびいている可能性が高いと思われ、この第一関門はイントレピッド案が圧倒的有利となります。

但し、第二関門の債権者数となるとこれは大きく状況が変わります。200社と言われる債権者の多くは国内企業ですからこれが全日空側になびけば8月5日の債権者会議では決定できなくなります。投票の結果を受けて双方が調整し再度債権者会議という流れになるものと思われます。つまり、スカイマークのスポンサー選びには今しばらく時間がかかる公算があり、投資ファンドのインテグラルがその再生をどう軌道に乗せるか予断を許さないということになります。

個人的にはイントレピッド/デルタ航空という案は面白いと思います。一部の保守派が羽田空港の「開城」に抵抗を示しているという声もありますが、時代錯誤はなはだしいそのような意見にはあまり意味はないでしょう。私が期待しているシナリオとはデルタが日本の空を飛ぶことで最終的には全日空、ひいては日本航空が有利になる展開が期待できると考えているからです。

まず、羽田を通して国内に入る方は日本人客が多いわけですが、日本人のサービスのクオリティに対する執着心は尋常ではありません。座席から機内食、サービスを含め、日本的なおもてなしを期待しますが、北米のエアラインにそれを期待するのはまず無理です。発想が移動手段であってキャビンアテンダントの義務に日本的な「やさしさ」が含まれていません。つまり、積極的にアメリカのエアラインを利用したいというモチベーションに欠けます。ということはデルタがスカイマークの経営に関与する場合、そのあたりがどう変わるか、想定がしにくいと思われます。

二番目にマイレージサービスがあります。デルタの提供するサービスはスカイマイル。このグループに属する航空会社は大韓航空、チャイナエアライン、中国東方、中国南方がアジアの主たるメンバーであります。一般に航空会社のマイルサービスはどれだけ貯めやすいかと共に、獲得したマイルがどれだけ使いやすいかにかかっています。

例えば私はバンクーバー在住ですから本来ならエアカナダのマイルを貯めるとカナダ国内の旅行がしやすい半面、日本航空のマイルはあまり便利ではなくなります。こういう事情もありエアカナダに乗るとどうしてもカナダ人が多いですし、日本の航空会社に乗ると日本人が多くなります。この論理からするとデルタ航空が提供するスカイマイルは多くの日本人にあまり魅力的なものにならず、将来のマーケティング上不利な勝負となるはずです。

国交省はどう見るか、ですが、昔から第三極に拘っていました。よって全日空かデルタか、といえばポリシー的にはデルタの方に傾く論理性はあります。勿論、日系ではない点に於いて大きな抵抗はあろうかと思いますが。

仮にデルタが乗り入れるとすれば全日空、日本航空は大いなる刺激を受けるでしょう。これは日本のお客様にとってもプラスです。ただデルタも世界最大の航空会社ですから積極的なマーケティングを打ち出すはずです。これによって日本の航空会社はマーケティングを含め、見直しが求められ、最終的には国交省の目論見が達成できるのではないかと思います。

ではビジネス的にデルタに勝算があるか、ですがスカイマーク単体でも発想の転換を行えば新たな顧客を取り込めるのではないかと思います。それは訪日外国人であります。デルタの提携先はKLMやエールフランスなど世界主要航空会社でありますからそれらとのマイルの提携をすることで伸びしろが期待できるでしょう。

マイレージサービスはマーケティングが実に複雑になっています。実は私は英国航空のマイレージを貯めているのですが、理由は私の持つカナダのクレジットカードと提携関係があり、有利なポイント転換が出来るからです。そして英国航空と提携している日本航空のチケットを英国航空を通じてゲットしているのです。ちなみに私はこのマイレージで英国航空には一度も乗ったことがありません。

スカイマークに対する全日空の姿勢はもともとが潔くありませんでした。非常に強気というか、スカイマークを利用して全日空の業績を伸ばすという思想が見え隠れしていました。その点も考え、債権者、国交省がどう捉えるか、そして利用客がどう反応するか、これはある意味、航空業界の別の意味での開国を迫られているともいえるのではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月16日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。