東芝の不適切会計処理問題、と言うより実質的には粉飾決算だが、町田徹氏が「現代ビジネス」に書いている「ニュースの真相」が興味深い。題して「膨らんだ『のれん代』1兆円超、東芝がひた隠す『原発事業の不都合な真実』」>。
東芝が事態究明のために設置した「第三者委員会」は、歴代社長3人が部下に無理な利益計上を強いたことが粉飾の引き金になったと指摘。西田厚聡(前々社長=現相談役)、佐々木則夫(前社長=副会長)、田中久雄(現社長)の歴代社長3人が引責辞任した。
しかし、町田氏は第三者委員会の調査にのみ取材を集中し、第三者委員会の姿勢そのものを問題にしないマスコミの姿勢は「危うい、これでは全容解明は覚束ない」と批判する。
第三者委員会が粉飾決算疑惑の調査の対象期間を5年に限定し、調査対象の不正をコスト(損失)の翌期以降への先送りだけに絞り込んでいると報じているにもかかわらず、それ自体を問題として追及する姿勢を欠いているからだ。
確かになぜ5年限定なのか。損失先送りは10年、20年前から起こっていた東芝の構造的な悪習かも知れないではないか、という疑問が残る。第三者委員会には最初から、東芝の破廉恥な経営問題を極力小さく限定しようという意図がありはしないか。
もし20年も前から起こっていたとしたら、東芝は上場廃止に追い込まれる。経団連会長になった石坂泰三、土光敏夫など多くの財界トップを輩出し、日本の産業界をリードしてきた名門企業がそんな体たらくであっては困る。日本そのものの信用にかかわる。そんな配慮が水面下で政府一体となって働いていないだろうか。
むろん東芝は現状でも相当に自らの信用、そして日本企業、日本そのものの信用を傷つけている。だから3社長のクビを斬ったのだろう。
しかし、町田氏は単なる損失先送りではない、大きな問題が東芝には潜んでいるとにらむ。それは原子力事業を主体とする巨額な「のれん代」だ。
東芝は2006年に4800億円を投じて米原発プラントメーカーのウェスチングハウス(WH)の77%の株式を取得し、子会社化した。2012年にはさらに約1250億円を投じて20%分のWH株を追加取得した。
他の買収も加わって東芝の「のれん代」は急膨張、2014年末には1兆1538億円ののれん代が計上された。一括償却すれば同1兆4265億円の株主資本の大半が吹っ飛ぶ計算だ。
問題は、のれん代の処理にある。のれん代は買収金額と、買収対象になった会社の正味価値の差額を指す。対象企業への買い気が強いと高値買いして、のれん代は膨らみがちだ。
経営の実態を決算に反映させるために膨らんだのれん代の償却は不可欠だが、償却方法は国際会計基準(IFRS)や米国基準と、日本基準で異なっている。IFRSや米国基準では、買収した企業(事業)の価値が下がったら償却するのに対し、日本基準は20年程度をかけて費用として計上し償却することになっている。
東芝は米国基準を採用した。当面ののれん代処理をしなくて済むが、価値が下がれば巨額の減損処理を強いられる。原子力事業にその懸念はないのか、と町田氏は危惧する。
そもそも、この償却をしないという方針に無理があった疑いがある。WHの本国である米国では、1979年のスリーマイル島の原発事故以降、新たな原発の建設がストップしており、原発は有望なビジネスではなくなっていた。
これに、福島第一原発事故が加わった。町田氏は「そもそもWHののれん代の先送りは、必要なコストの計上や損失の処理を先送りするという点で、今回、問題になっているインフラ工事の経費先送りなどと同根の問題でもある。……精緻な調査を避けては通れない」と追及する。
原発は新興国や途上国で需要が膨らんでおり、先行き見込みがないとは言い切れない。のれん代の償却負担をそれほど危惧しなくてもいいかも知れない。
だが、ここ数年の海外での大型M&A(企業合併・買収)ブームで、巨額ののれん代が発生、その減損処理の圧迫を受けている企業はふえている。武田薬品工業、日本たばこ産業、キリンホールディングス……。
のれん代減損の不安が東芝の損失先送りを生んだかどうかは定かではないが、多くの企業の安易なM&Aが企業業績の粉飾を招く危険はないか。「精緻な調査」が必要な局面ではあるだろう。