伝統的アナーキーへの回帰 『中国経済まっさかさま』

勝又壽良
サンクチュアリ出版
★★★☆☆



上海株の暴落をきっかけに、かねてから危惧されていた中国バブル崩壊の不安が高まっている。最近よく話題になる「爆買い」は信じられない規模で、大型店の売り上げの9割が中国人という店も多いらしい。それもハイテク商品ではなく、電気釜のような日用品を大量に買ってゆく。

ここにも中国人自身の不安が感じられる。常識的には中国に輸入された日本製品を買えばいいと思うが、一度でも中国人の手を通ったものは、偽ブランドが多く信用できないのだという。中国人をながく見てきた著者がその根本的な欠陥と考えるのは、彼らが国を信用していないだけでなく、(家族や親族以外の)他人を信用しない相互不信である。

朱子学では、社会秩序を維持するしくみとして政治や学問のような「理」だけではなく、人々が共有する「気」を重視した。これは日本では「気持ち」と解釈されることが多いが、むしろ山本七平の「空気」に近い。これが自然に共有されるのは、たかだか数百人から数千人ぐらいの社会で、それ以上大きな社会になると、民衆のアナーキーを抑圧する暴力装置が必要になる。

中国のように膨大な人々を一つの国にまとめてしまうと、「気」を共有することは不可能なので、民衆を暴力で抑圧する国家が2000年以上続いてきた。それが爆発寸前まで行ったのが文化大革命の時期だったが、鄧小平は「改革・開放」によってカネの力で人々を何とかまとめた。そのカネの力がきかなくなった今、中国の伝統的アナーキーに戻りつつあるのかもしれない。

では本書のいうように、中国経済はまっさかさまに転落するだろうか? 今までの資本蓄積もあり、膨大な低賃金労働者や規模の経済もあり、何より強大な軍事力があるので、そうすぐ崩壊するとも思えないが、その軍事力がコントロールできるのかどうかが大きな問題だろう。