キリスト者1億人以上が弾圧下に --- 長谷川 良

イタリアのローマ・カトリック教会の慈善団体「カリタス」が先月30日、公表した最新報告書によれば、世界で1億人以上のキリスト信者が独裁政権や他宗派の信者たちから迫害され、弾圧されているという。例えば、北朝鮮だけでも5万人から7万人のキリスト信者が強制政治収容所に送られている。


▲1億人以上のキリスト信者が迫害される(バチカン放送独語電子版から)

同報告書によれば、2013年11月から14年10月の間で少なくとも4344人のキリスト信者が宗教的理由から殺害され、1062の教会が襲撃された。特に、シリアやイラクではイスラム教スンニ派過激テロ組織「イスラム国」(IS)によってキリスト信者、少数派宗派たちが迫害されている。また、ソマリア、アフガニスタンでも同様だ。ナイジェリアではイスラム過激派テロ組織「ボコ・ハラム」による襲撃が多発している。中国でもキリスト者を含む宗教者への迫害が増えている。

シリア、イラクに侵攻し、イラク北西部で進撃を続ける「イスラム国」はイラク国内のキリスト信者やクルド系民族宗教ヤズィーディー教信者たちを迫害し、虐殺を繰りかえしている。

イラクでは2003年のイラク戦争前までは約100万人のキリスト信者がいたが、現在は「まったく存在しなくなった」といわれるほどだ。イラクのキリスト教の拠点だった同国北部のモスル市では、キリスト者たちは拉致されたり、殺されたりしている。
多くのキリスト者の家族はモスル市から25キロほど離れた Karakosch 市に逃げた。ISが昨年6月モスル市を占領すると、ISは「48時間以内に出ていけ、さもなければ子供を拉致する」と脅迫。彼らはキリスト者の家には「N」という印を付けていった。Nは「ナザレの人々」という意味だ。Karakosch市もISに襲撃される危険が出てきたので、多くのキリスト者たちがクルド自治区のアルビール市を経由してヨルダン西部のザルカ市に逃げていった、といった具合だ。

ヨルダンに約7000人のキリスト信者が避難している。彼らは「イスラム国」の襲撃で危険なイラクから逃げてきた。キリスト者の婦人によると、「ISが襲撃すると、イスラム教徒たちは彼らを歓迎した。なぜならば、われわれが所持していた全てを奪うことができるからだ」という。「私たちはもはやイスラム教徒を信じることができない」と述べ、紛争が終わっても故郷に戻ってイスラム教徒と共存は難しいという(オーストリアのカトプレス通信)。

ローマ法王フランシスコは、「イラク教会の兄弟姉妹は迫害され、虐殺されている」と指摘、国際社会に中東地域のキリスト者の権利の保護を訴えている。バチカン関係者によると、「イラクで進行中のキリスト信者への迫害は2000年のキリスト教史の中でも最悪の状況だ」という。

ちなみに、フランシスコ法王は昨年、「イスラム教国を訪問し、少数宗派のキリスト者を鼓舞したい」と語ったことがある。法王は9月、米国を訪問し、国連総会(25日)で演説するが、そこで少数宗派のキリスト信者の保護を世界に向かってアピールする考えだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。