共和党大統領候補第1回討論会トランプがカードを切る --- 安田 佐和子

2016年米大統領選に向け、共和党候補10名による討論会の火蓋が切り落とされました。最初の舞台はオハイオ州クリーブランドにある、クイッケン・ローンズ・アリーナです。

討論会の舞台には失言王もとい不動産王のドナルド・トランプ氏をはじめ、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事を含む10名が立ちました。滑り込みセーフだった候補はハリケーン「サンディ」でオバマ米大統領とのブロマンスが騒がれたニュージャージー州のクリスティー知事と、オハイオ州のジョン・カシチ知事。テキサス州のリック・ペリー前知事のほか、インド系でルイジアナ州のボビー・ジンダル知事、リンジー・グラハム米上院議員(サウスカロライナ州選出)、ジョージ・パタキ元NY州知事、カーリー・フィオリーナ元ヒューレット・パッカード最高経営責任者(CEO)は脱落しています。後者は、米東部時間の午後9時からではなく、午後5時からの討論会で発言の機会を与えられました。

ディベートに選ばれし10名は、こちら。

ドナルド・トランプ(実業家)
ジェブ・ブッシュ(元フロリダ州知事)
スコット・ウォーカー(ウィスコンシン州知事)
マイク・ハッカビー(元アーカンソー州知事)
ベン・カーソン(元外科医)
テッド・クルーズ(米上院議員、テキサス州選出)
マルコ・ルビオ(米上院議員、フロリダ州選出)
ランド・ポール(米上院議員、ケンタッキー州選出)
クリス・クリスティー(ニュージャージー州知事)
ジョン・カシチ(オハイオ州知事)

台風の目は、世論調査でトップをひた走るドナルド・トランプ氏。スポットライトを浴び物議を醸すかに注力したようで、開始早々に「共和党米大統領候補として指名されなかった場合、無党派の候補者になるか」との質問にたった1人、躊躇なく挙手していました。司会者達から、メキシコ人や女性への暴言を槍玉に挙げられつつ「アメリカはドアのついた防護壁を国境に配備すべきだ」、「メキシコとの国境警備隊から聞いた話によると、間抜けなアメリカ政府にかこつけメキシコ政府が犯罪者の越境を黙認している」、女性にデブやら犬やらと蔑称を並べ立てた過去については謝罪せず「ロージー・オドネルのことだよ」と言ってのけるトランプ氏。役者ですなぁ。おまけに「アメリカ政府の問題は、『道徳的に正しい』方向へ行き過ぎた。今、この国にそんな余裕はない」と主張。善かれ悪しかれ会場を沸かせたものです。

発言時間の1位も、トランプ候補が圧倒的首位。


(出所:New York Times

放送局フォックス・ニュースとタイアップしたフェイスブックによると、750万人が討論会について言及したといいます。こうしたコメントは、2000万人もの人々をつなげました。今年の一般教書演説(560万人が言及、1400万人が反応)を大幅に越え、関心の高さをみせつけています。ツイッターで最も名前が上がった候補者はトランプ氏で、全体の30%を獲得。12%だった2位のカーソン氏を大きく引き離します。本命視されているブッシュ元フロリダ州知事は7位と、下から4番目の結果に終わりました。

トランプ氏はさておき、各メディアが選ぶディベートでの勝者はこの方々。クリスティー知事とポール議院はNSAを巡り激しいバトルを交わしたものの(クリスティー知事は米政府の関与を支持、ポール議院は不支持)、大勢に影響しなかったもようです。

CNN
各著名人が選んだ勝者、敗者は以下の通り。
勝者
>ドナルド・トランプ
>マルコ・ルビオ
>カーリー・フィオリーナ
>ランド・ポール、クリス・クリスティー
>ジョン・カシチ

敗者
>ドナルド・トランプ
>ジェブ・ブッシュ
>ランド・ポール、クリス・クリスティー
>マイク・ハッカビー
>ベン・カーソン

ザ・ヒル
各著名人が選んだ勝者、敗者は以下の通り。
勝者
>マルコ・ルビオ
>カーリー・フィオリーナ
>ジョン・カシチ

ワシントン・ポスト
勝者
>マルコ・ルビオ 明確かつ俊敏な回答で存在感を放つ
>カーリー・フィオリーナ 実務家らしい語り口を評価
及第点
>ジェブ・ブッシュ、スコット・ウォーカー
敗者
>ドナルド・トランプ 米大統領にふさわしくない発言が目白押し

CNBC
勝者
>マルコ・ルビオ 経済および移民政策で保守派らしい見解を表明
>ジョン・カシチ 地元の利点を生かし低所得者層向け医療保険制度を拡大した理由を力説
>クリントン民主党候補 eメール問題は1回しか言及されず
敗者
>ジェブ・ブッシュ 討論会の数時間前に選挙対策本部が戦術をネットに誤配信
>ベン・カーソン 「脳半分の摘出に成功したのは自分だけ」と外科医らしいパンチラインを発するも終了間際

ニューヨーク・タイムズ
勝者
>マルコ・ルビオ 保守派として明確な立場を表明
>スコット・ウォーカー 中絶反対の立場や財政再建への努力をアピール
>ジョン・カシチ 同性婚に出席したと明かし「娘が同性愛者でも受け入れる」と発言
敗者
>ジェブ・ブッシュ 穏便にすませ保守色が不鮮明
>ドナルド・トランプ 集中砲火に対応しきれず
>その他のテッド・クルーズをはじめランド・ポール、クリス・クリスティー、ベン・カーソン、マイク・ハッカビーは存在感を放てず

オンライン・マガジンのスレートが集計した世論調査では、NY時間の7日午後2時50分時点でこのような結果に。


(出所:Slate

今後ますます議論が白熱し、世論調査も本番さながらにトップの顔ぶれが変わっていくのでしょう。トランプ候補はエースとなるかジョーカーとなるか、あるいは切り捨てられるのか。戦いは、まだ始まったばかりです。

(カバー写真:AARON JOSEFCZYK/Reuters via Newsweek


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年8月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。