7月28-29日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公表されました。今回はなぜか米東部時間午後2時公表の予定が、約30分前に突然リリースされるというサプライズが発生。ブルームバーグが誤配信したためで、これを受けて前倒しでFedもウェブサイトにて声明文を掲載せざるを得なかったというわけです。Fedの情報管理能力にあらためて疑問を再燃させるハプニングかと思いきや、情報ベンダーのエラーでした。肝心の内容は、9月利上げスタンスを明確に打ち出さず。声明文に微調整を加えた程度だったように9月利上げの可能性を残しつつ、正常化に急いでいない様子もにじませています。FOMC議事録のポイントは、以下の通り。
▽利上げをめぐる協議
・ほとんどの参加者は、利上げ開始への条件が達成できていないと判断
・同時に、大半の参加者は利上げ開始が「近づいている(approaching)」と認識
・多くの参加者は、持続的な経済成長と労働市場の改善がカギとの見解
・数人の参加者は、足元の経済指標はインフレが中期的に2%へ回帰する根拠を示さずと主張
・複数の参加者はインフレが余剰資源を吸収するほどではなく、海外動向による圧力で下方リスクが高まる懸念を表明
・時期尚早な利上げに踏み切れば、金利が現状のような低水準で経済およびインフレの下方リスクをめぐる対応余地は限られるとも懸念
・数人の参加者は、過去数年前と比べ経済が大いに回復したと強調、早期に利上げに踏み切る体制が整ったと指摘
・何人かの参加者は、金融政策およびバランスシートが緩和的と判断
・2人の参加者は、利上げ先送りが望ましくないインフレ上昇や金融安定にネガティブな影響をもたらすと懸念
・早期の利上げ開始は、経済見通しへの自信を表すとの声も
・利上げ前のコミュニケーションでは、利上げ開始時期より道筋を強調すべきと繰り返す
・1人の参加者、7月の利上げを表明も見送りに回る
▽経済動向
・数人の参加者は、過去数年前と比べ経済が大いに回復したと強調
・参加者は利上げ開始に向け、経済指標を見極めるべきと判断
・利上げ開始を保証する経済環境が整うまで、利上げ開始を待つことで一致
・労働市場は年初から顕著に改善も、数人の参加者は「一段(further)」の改善が必要とみなす
・労働需要が高まるものの、後半におよぶ賃上げにつながらず
・スタッフ見通しでは、GDPとインフレ見通しリスクはダウンサイドに傾く
▽海外動向
・ギリシャから派生する財政、金融リスクは減退
・中国株安は成長見通しに限定的な影響
・複数の参加者は、中国経済の減速こそリスク要因と主張
・数人の参加者は米国とその他の国における金利が逆行し、ドル高加速を招き輸出競争力を抑制する可能性に懸念
▽金融市場
・債券市場の流動性不足、ノンバンクセクターでのレバレッジドローン資金流出、タームプレミアムへの影響などを協議
・プエルトリコ債務危機、米国へ波及するリスクは限定的
・将来における金融政策を踏まえ新たに派生しつつあるリスクを考慮
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番であるジョン・ヒルゼンラス記者による「Fed、利上げにまちまちなサインを残す(Fed July Policy Meeting Minutes Leave Mixed Markers on Rates)」との記事を配信。FOMC議事録は利上げが「近い」と表現しつつ、インフレ動向や中国を含む海外動向を意識し時期尚早な行動への懸念を含んでいたと報じた。
バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、議事録を受けて「フィッシャーFRB副議長の発言と合わせ、Fedの間でインフレ見通しが悪化し始めた可能性を示す」と指摘した。特に「『インフレは余剰資源を吸収するほどではなく、海外動向による圧力で下方リスクが高まる懸念を表明』との文言を取り上げ、新たな下方リスクに言及した」点に注目。Fedは労働市場の改善を評価する一方で「ゴールポストをインフレ方向へ寄せた」との認識を表し、「9月利上げを見送る可能性が高まった」と結ぶ。
PIMCOのグローバル・ストラテジック・アドバイザーであるリチャード・クラリダ氏は、CNBCにて「経済指標への依存イコール金融政策は成り立たず、Fedは利上げ開始に傾いているように見える」との見方を示した。その上で「9月利上げの可能性は高まった」と発言している。同氏の認識どおり、Fedウォッチの利上げ織り込み度は45%と低下の兆しをみせていない。
(出所:Fed Watch)
一方で、マイケル・アローン主席投資ストラテジストは、「FOMC議事録は9月利上げに踏み切らないシグナルを送った」とコメント。12月利上げの可能性が大きいと見込む。
——7月FOMC議事録は、見事にバランス良い仕上がりで9月利上げの言質を取らせませんでした。金融市場のファースト・リアクションはハト派寄りと解釈し、ダウ平均は一時200ドル安近くまで落ち込んだ後に前日終値へ接近。米10年債利回りも急低下したものです。もっとも、9月利上げを否定したわけでもなかったために、米株・米債ともに売りが再燃しました。ただしS&P500は鉄壁の52週平均線で下げ止まっており、マーケットは弱気に転じていない様子が伺えます。
*バークレイズのコメントを追加します。
(カバー写真:Amaury Laporte/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年8月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。