韓国日刊紙ハンギョレ新聞が今月18日、「朴槿恵大統領は今年7月の非公式会合で、『来年にも南北は統一されるかもしれないから、準備するように』と発言していた」と報じ、話題を呼んだ。政治家の発言を理解するためには通常、発言した時、政情などを踏まえたうえで、その真意を探らなければならないが、朴大統領の発言は少々、雲をつかむような話だ。
もちろん、「南北再統一は来年にも実現するかもしれない」という朴大統領の発言内容を「非現実的」として完全には排除できないが、大統領の発言は政治家のそれというより、“巫女のお告げ”のようだと言われても仕方がないだろう。朴大統領の名誉のために説明を試みるとすれば、同大統領の発言は、北朝鮮で金正恩第1書記時代に入り、党・軍幹部70人余りが粛清され、亡命したという事実を踏まえ、「北の崩壊が予想以上に早いかもしれない」といった漠然とした認識から飛び出しただけだろう。
その朝鮮半島で再び南北間の軍事衝突の危険が高まっている。南北高官会議が22日、板門店で開かれ、正面武力衝突といったシナリオを回避する動きが見えだしたが、危険性は依然排除できないのが朝鮮半島の現状だろう。
その直前、「朴大統領は、来月3日北京で開催される抗日戦勝利70周年式典に参加する」というニュースが流れた。親中、反日政策を主導してきた朴大統領にとって、抗日戦勝利70周年式典は中国との友好関係を深めるうえでいい機会かもしれないが、中国は韓国の歴史では常に侵略国家であり、多くの国民を苦しめてきた国家である、という歴史的事実を忘れてはならないだろう。ズバリ、朝鮮動乱(1950年6月25日~53年7月27日)を想起すべきだ。中国人民解放軍が参戦し、多くの韓国国民が犠牲となり、南北が分断された。中国には南北分断の責任があるのだ。
その中国が主催する抗日戦勝利式典に韓国大統領が出席するという。歴史を全く知らない人間ならばいざ知らず、韓国大統領が中国の抗日戦勝利式典に出席するということは、韓国の威信を傷つける反国家行為といっても過言ではない。ちなみに、韓国は抗日戦の勝利国ではなく、日本軍と一緒に戦い、敗北した立場だ。ここにも歴史的事実に対して不誠実さがある。
当方は駐オーストリアの北朝鮮外交官と朝鮮動乱問題で議論したことがある。北外交官は、「動乱は韓国側が始めた戦争だ」と主張して最後まで譲らなかった。当方が懸命に歴史家の証言を伝えたが、「お前は何を言うか」という一言で一蹴された。同外交官は平壌でそのように教えられてきたのだ。
しかし、朴大統領は北外交官ではない。中国が朝鮮半島で演じてきた役割について、真剣に振り返る必要があるだろう。繰り返すが、中国人民軍が多数の韓国兵士、国民を殺害したのだ。(「北朝鮮書記官と『あの日』」2008年2月27日参考)
朴大統領は大統領就任後、日本に対しては「正しい歴史認識」をキャッチフレーズに、従軍慰安婦問題や強制労働の問題を取り上げ、日本を批判。外遊先では「告口外交」をし、日本を中傷誹謗してきた。そして貴重な大統領の任期5年間の半分を浪費してしまった。
朴大統領には先ず、朝鮮動乱に関する歴史書を再読することを勧める。そして動乱で犠牲となった多くの国民の前で中国の抗日戦勝利70周年式典参加を決定した経過を説明すべきだろう。残念ながら、朴大統領の発言には歴史的認識の欠如が目立つのだ。
朴大統領は、「南北統一が来年にも実現できるかもしれない」と発言する一方、その南北分断の責任国の中国の抗日戦勝利式典に参加するのだ。その言動は「正しい歴史認識」からはほど遠い。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。