ウィーンで「10月革命」が起きるか --- 長谷川 良

シリアから難民が殺到しているドイツのナーレス労働社会相は、「移民によ って労働力不足が解決される」と歓迎したというが、同国では移民、難民が収容されている難民居留所や収容所が何者かに放火されるなどの不祥事が頻繁に発生している。一方、オーストリアでは移民の殺到に批判的な極右派政党「自由党」が来月11日に実施予定のウィーン市議会選で第一党に躍り出る勢いを見せているなど、両国の政情は移民、難民の殺到で大きく揺れ動いているのだ。ここでは移民問題が大きな争点となってきたウィーン市議会選について報告したい。


▲「ウィーン市長を目指す」と語る自由党のシュトラーヒェ党首(オーストリア自由党のHPから)

音楽の都ウィーン市は戦後から今日まで社会民主党(前身・社会党)が政権をほぼ独占してきた。社民党が他州議会選挙で敗北を喫し続けている中でも、特別州のウィーン市議会だけは社民党が政権を維持してきた。そのようなこともあってウィーン市は“赤の砦”と呼ばれてきた。そのウィーン市議会選が来月11日、実施されるが、ホイプル現市長の社民党が大きく得票率を下げるだろうと予想される一方、野党の極右政党「自由党」の躍進間違いなしと見られているのだ。シュトラーヒェ党首が率いる「自由党」が社民党を抜いて第一党に躍進すると予測するメディアも出てきた。自由党に追い風となっているのは殺到する移民問題だ。

オーストリア東部のブルゲンラント州で先月27日、高速道路(A4)の路肩に駐車していた小型冷凍トラック車の中から71人の遺体(子供4人、女性8人、男性59人)が発見された。不法移民あっせん業者によってハンガリーから運ばれていたのはシリア、イラク、アフガニスタンからの難民たちだった。このニュースは同国国民に大きな衝撃を投じた。

人道的観点から移民・難民の受け入れを訴える「社民党」や「緑の党」に対し、“オーストリア・ファースト”を党是とする「自由党」は移民・難民の殺到を防止するため有刺鉄線やフェンスを設置する隣国ハンガリーのオルバン首相に理解を示し、「わが国の失業者は急増している。難民対策より、失業者対策が急務だ。わが国も国境線沿いに壁を構築すべきだ」と主張する一方、北アフリカ・中東地域からの移民・難民が主にイスラム教徒であると指摘し、「キリスト教社会の欧州をイスラム教化から守らなければならない」と述べている。

シュトラーヒェ党首は4日、正式に選挙戦をスタートし、「歴史的なチャンスを迎えている。ウィーン市議会選で得票率30%を大きく超え、40%を目指さなければならない」と述べ、市議会で第1党になり、ホイプル市長を退陣に追い込む姿勢を強調している。同党の選挙ポスターには「10月革命」と大きく記されているほどだ。

一方、社民党のホイプル市長は3日夜のニュース番組に出演し、「ウィーン市民はブタペストから西駅に到着した移民、難民を心温かく迎えている。ウィーン市は移民の殺到でカオスとはなっていない」と評価、「自由党」は市民に恐怖や不安を煽っていると批判している。

ウィーン市議会選で注目される点は、ウィーン市在留のトルコ系市民(イスラム教徒)が独自の政党「トルコ・リスト」を結成し、市議会への進出を目指していることだ。同党は単にトルコ系市民だけではなく、外国出身の有権者をターゲットとしている。同新党が議席獲得に必要な得票率5%をクリアできるかどうかは目下、不明だ。

オーストリアの「自由党」だけではない。フランスでもオランダでも極右・民族派政党が殺到する移民・難民問題を争点に国民の支持を拡大している。それだけに、来月11日のウィーン市議会選で「自由党」がどこまで票を伸ばすか注目されるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年9月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。