職住接近の発想を取り込め

私が以前勤めていた会社の寮は神奈川県の追浜の山の上にありました。渋谷の本社からは当たり前の通勤エリアなのですが、問題は駅から山の上までバス便がなく、不評でした。女性は夜の山歩きはしたくないというし、男性からは酒を飲んだ後、あの坂は登れないと苦情の嵐でありました。往復ざっと3時間のその行程は24時間が21時間に減ったようなものでした。

私の知り合いが東京都国立市の実家を親から譲り受け、広い戸建に住めたと喜んだのはつかの間、新しい勤務先は横浜。いったいどうやって通勤するのか、思わず、都内の路線図を見ながら考えてしまいました。結局その彼は平日は横浜に住み、週末だけ家族のもとに帰るという二重生活をしています。

日本はなぜか不動産は「不動の地位」を築いており、一旦その地に物件を買うと未来永劫、孫の代までそこに家が存在するがごとくになります。が、それが理由で一日に何時間も貴重なものを失っているのを放置しているようにすら思えます。

日経が調査した社長の居住地。2003年と2014年の調査比較ですが、都心回帰が鮮明で一等地で知られた世田谷の人気エリアが軒並みダウンする一方、港区など都心の再開発地や新しい物件に大きくシフトしていると報じています。ちなみに2003年の上位三位は上から田園調布、成城、大泉学園でしたが14年には赤坂、代々木、西新宿となっています。

もちろん、世田谷でも23区内ではないかと反論されるかもしれませんが、社長業は24時間営業だということを考えれば何かあった時すぐに対応できるし、前夜遅くまで接待し、翌朝早く羽田から国内出張という技も都心にいればこなしやすくなります。

私のバンクーバーの居住地から事務所までは徒歩2分、全ての事業地も2分以内であります。おかげで正に24時間営業となりますが、機動性を生かせることがビジネスにどれだけつながったか、枚挙に暇がありません。クルマで30分ほどのところに住んでいたかつての上司は「オンオフの切り替え」と称していました。サラリーマンならそれでも良いのですが、社長はオンしかないことを考えると通勤時間ゼロがベストであります。

業務の効率化はどんな企業でも当たり前の課題でありますが、自分の24時間の効率化については案外、放置している人も多いのではないでしょうか?そして住むところの固定化がその効率化に大きなハードルとなってしまうのです。

不動産の仕事をずっとやり続けて思うことは不動産を流動資産とする発想がありそうな気がしています。今、若くして派遣で働いている人たちは持ち家は遠い夢であります。銀行が20年間のローンの支払いを担保できる安定した収入を要件とするからです。しかし、この発想そのものがもはや古く、銀行は不動産を担保としている限り、最悪、その担保で処理できるようにしていくべきなのでしょう。

勿論、競売などで家を追い出される方の権利や人道的問題もありますが今の日本のルールとやり方はすべてを満足させるために役所や銀行がガチガチな関門を作り、その結果、市場の創生がしにくくなっている悪循環に入ろうとしています。

不動産の流動化、これが、日本経済を大きく変える一つのキーになるはずです。老いも若きも施設に入ろうという人もライフスタイルに合わせて住むところが自由に選べればこれほど富める発想はないと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月13日付より