そういう論争に一区切りがついたのが、60年安保だった。このとき岸信介が行なった安保条約の改正は、吉田茂も「暫定的」といっていたサンフランシスコ体制を一部修正するもので、残る課題は再軍備だった。
ところが岸の後の池田内閣の時代から急速な高度成長が始まり、国民の関心は経済問題に集中した。あり余る財源をどう分配するかが最大の政治問題となり、防衛費もGDPに比例して増えていったが、憲法第9条との矛盾は放置され、やがて忘れられた。
この矛盾は政権政党としては解決すべき問題だが、野党は中選挙区制で1議席をとればいいので、集票は労働組合にまかせて「平和主義」のきれいごとをいうのが賢明な戦術だった。このように万年野党システムの中で、なし崩しに憲法が空洞化した時代を、北岡伸一氏は60年体制と呼んでいる。
これを終わらせるために1993年に「政治改革」が行なわれて小選挙区制になったが、それをつくった小沢一郎氏が、細川内閣や新進党で改革に失敗した。それを建て直そうとした民主党政権も、60年体制のねじれの根幹にある憲法に手をつけなかったため、また今国会で矛盾が表面化した。
野党はこんな乱闘を何度くり返しても政権に戻ることはできない。責任をもって政権を担うためには、次のどちらを選択するかを明確にすべきだ。
- 内閣の解釈改憲による安全保障体制の漸進的な変更を国会で承認する
- 自衛隊・安保条約の存在する状況に合わせて憲法を改正する
1は、手続き的には違憲ではない。最高裁判決が出るまでは内閣が憲法解釈を決めることができ、本来は国会承認も必要ない。昨年の閣議決定のときは、野党は60年体制で暗黙の了解になっていた1を選んだようにみえたが、今年の長谷部証言で突然、方針を変更して実定法原理主義になった。それなら選ぶべき道は、2しかない。
60年体制はもともと法的な矛盾を抱えているので、それを攻撃されると大混乱になる。国会で乱闘するぐらいならいいが、戦争の危機が迫ったとき、憲法論争をやっている暇はない。野党もこういうバカげた騒ぎには今日でけりをつけ、自民党との憲法改正協議を始めるべきだ。