ラグビーの人気は上がるの?

よい子のみなさん、どうも新田です。人生ここまで無謀なトライを試みて痛い目にあっております。
ところでイギリスで開催中のワールドカップ(W杯)で過去1勝しかしたことのない日本が、優勝経験もある強豪の南アフリカを破る大金星を挙げてラグビーファンが大騒ぎです。ラグビーは2019年に日本でW杯が開催されるのが決まった割に、サッカーや野球と比べると、国民的な人気があったとは言えない状況でしたが、日本でラグビー人気は定着するのでしょうか。


※スポーツ紙から一般紙まで一面で掲載

■カギはコンテンツ・バリューを上げること
同じ日本代表でもサッカーとの格差はテレビ局の扱いを見れば一目瞭然です。サッカーは代表チームがW杯の予選の最初から、たとえ格下のシンガポールに、ふがいなく引き分けたとしても地上波で生中継をしてくれます。一方、ラグビーはW杯本番の初戦なのに、南アフリカ戦はNHKの総合テレビではなく、BS1でした。一応、地上波の日本テレビが翌日の昼間に放送しましたが、これは録画中継でした。試合は日本時間で、良い子の皆さんがぐっすり眠っている未明のことでしたので、要するに日本テレビとしては、「ラグビーはサッカーほど人気がないので、生中継で見たがるファンが少ない。夜中に生中継するよりも、録画中継した方が、数字が高く取れる」と計算していた可能性があります。

このように、中継する試合の中身をお金に換算して価値判断しているわけですが、これを英語で「コンテンツ・バリュー」といいます。ラグビー協会もサッカーよりコンテンツ・バリューで劣っていることは自覚していて、協会の長期戦略の中でも「プロモーション/広報戦略」を課題に挙げています。

戦略では同じく、約12万人の競技人口をW杯日本大会までに20万人に増やすことを目標にしていますが、早稲田大学でスポーツ政策を研究する間野義之教授らのレポートでは、「競技者→観戦者という構図ではラグビーはコアなマイナースポーツを脱しきれない」と指摘されています。ある競技の人気を高めるのに、実際にプレーする人を増やすことは重要ですが、女性が野球や相撲をするのが難しいように、みんなが選手になれるわけではありません。規模を増やすにはプロ野球の広島が女性ファンを増やして「カープ女子」と呼ばれて人気が出たように、いろいろな層の人をファンにする必要があります。結局、ラグビーがサッカーや野球と同じく「国民的な人気」を誇るためには、やはりコンテンツ・バリューを高め、スタジアム、あるいはテレビ中継で「試合をみたい」「あの選手の活躍を見たい」と思ってくれる人を増やすしかないのです。

■「勝てば官軍」のスポーツ界
ではコンテンツ・バリューを一気に高めるにはどうしたらいいのでしょうか。それは代表チームが世界で勝てるようになるしかありません。プロ野球やJリーグの観客動員を見ていると、ほとんどのチームは優勝する年の方が増える傾向にあります。「勝てば官軍」という言葉がありますが、世の中の反応は厳しくも分かりやすいので、結果を出すようになると、人もお金も付いてくるものです。近年も、なでしこジャパンが2011年に女子サッカーW杯で優勝してから、世の中の反応が手のひらを返すように変わりました。なでしこは長年、試合を無料開放してもスタンドはガラ空き、プロ契約でない選手はスーパーでレジ打ち等のバイトをして生計を立てているような苦労を重ねていました。しかし男子代表では絶対ありえないW杯制覇の快挙をなし遂げたことでコンテンツ・バリューを劇的に高めました。なでしこの選手が帰国した時、成田空港の出迎えの数は見送りとは比べようにない規模に膨れ上がり、選手たちには企業から続々とコマーシャルの出演オファーが舞い込みました。

その点、ラグビーは、かつての女子サッカーに比べると、下地はしっかりしています。大学ラグビーの早明戦は伝統の一戦として、国立競技場は毎年のように満員になります。ただし、楽しんでいるのは学生や卒業生、大学関係者どまり。長年、世界で勝つための強化をするという戦略に欠けていましたし、見る方もそこまで要求していない「鎖国」的娯楽だったのです。

しかし2009年に、19年のW杯日本開催が決まり、「このまま世界で勝てないと開催国として恥ずかしい」という機運が生まれました。W杯開催は、いわば日本ラグビーの国内志向を変える「黒船」になったのです。そして、2011年にエディー・ジョーンズさんがヘッドコーチ(監督)に就任し、この4年間、世界で勝つために代表チームの強化に取り組んできました。

■決勝T進出なら“第2のなでしこ”に
あさっては2戦目となるスコットランド戦です。スコットランドは19世紀に史上初の国際試合となったイングランド戦に勝利し、日本には2004年、100-8で圧勝した伝統も実力もある強敵です。日本がスコットランド戦でも勝てば、南ア戦がまぐれではなかったことを示すだけでなく、初の決勝トーナメント進出も見えてきます。そうなると、ラグビーのコンテンツ・パワーも、なでしこ優勝と同じくらいに強固となり、スポーツニュースの露出は激増。帰国した五郎丸選手はコマーシャルに出演し、ルーティンと言われる彼のキック前の動作がモノマネ芸人のネタになり、エディーさんには出版社から「弱くても勝つ組織を作るには」といったビジネス本の依頼が来てベストセラーになるかもしれません。

日本テレビも次の試合は生中継をするようです。試合開始は23日22時30分ですから、良い子の皆さんはいつもなら寝ている時間だと思いますが、たまにはお父さん、お母さんにお願いしてテレビの前で日本代表を応援してみてもいいでしょう。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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