日本経済新聞社が安全保障関連法の成立を受けて19-20日に実施した世論調査によると、安倍内閣の支持率は40%と、8月末の前回調査を6ポイント下回った。不支持率は47%で支持率を上回った。他のメディアも大同小異だろう。
安保関連法の今国会成立を「評価しない」は54%で、「評価する」は31%にとどまった。集団的自衛権の行使に「賛成」は28%で「反対」の53%を大きく下回る。このほか、米軍普天間基地の辺野古移設、原発再稼働などの重要政策でも賛成より反対が多い。この傾向は安倍政権誕生以来、変わっていない。
では、来年の参院選で自民党は敗退するのか、というと、少なくとも今のところその可能性は小さいだろう。なぜか。野党の支持率は伸びず、自民党の受け皿になっていないからだ。民主党の支持率は12%と前月比3ポイント上昇にとどまり、自民党支持率の35%を大きく下回る。最大なのは相変わらず無党派層の36%だ。
これは何を意味するのか。
安保法制の誕生直後に知り合いの60歳前後の男性が、不安そうに私に尋ねた。「新聞じゃ、あの法案は戦争法案と言っている。本当に大丈夫なんですか。安倍政権て、危ないんじゃないんですか」。私が元新聞記者だから、事情に詳しいだろうと思ってのことだ。
「今までの日米安保条約と自衛隊の存在で平和にやってこれたんだから、これを崩すことはないんじゃないか」というのが、彼の主張である。
「アメリカは軍事予算を削減しており、今までと違って日本も一緒に戦わないと、日本を守りきれないと言っています」と言うと、「そこを何とかするのが政治でしょう」と言う。
彼は「自衛隊は米軍の補助であって、日本はあくまでも安保条約で米国に守ってもらうのが望ましい」と考えている。
「米国の国民は日本が何もせずに、米軍の若い兵士だけが日本のために血を流すことを認めるでしょうか。それは虫がいいと思うんじゃないですか。怒ってそれらな安保条約は解消する、と言って来たら、どうします」
すると、「ですから、そこを何とかうまくやるのが政治の役割でしょう」と再説する。
「では、安保法案に反対した民主党を支持しますか」と聞くと、「わからない」と自信なさげ。民主党が政権をとっていた2012年までの3年間の危なっかしい
状況を覚えているからだ。
彼の望みは自分たちが危険にさらされず、米国のような強い国に守っていられる状態が半永久的に続くこと。そうなるように、政治家は「うまくやってほしい」ということに尽きる。
誠に正直で、自然な感情である。安保法制への不人気とそんな不安な政治に突き進む安倍政権の支持率が下がるのも当然だ。無党派層が(久しい以前から)最大なのも、「政権はだれでも良い。うまくやってくれればいい」と思っている有権者が多いことを示している。
だが、いや「だからこそ」というべきだろう、(今の)民主党その他の政権には任せきれない。もっと日本を危うくしそうだからだ。
有権者は次善、三善の策として安倍・自民党政権に政治を託しているわけだ。「任せるけれど、危ない政策をしては困るよ」と、安保法案にも辺野古移設にも原発再稼働にも反対している。
だが、時間が経過して、その結果、不安な戦争が起こらず、原発被害も発生しなければ、徐々に反対者は減って行く。政治とは実行力、「うまくやれる」政権か否かが最大のポイントなのである。
有権者は支持率を下げることで「うまくやらないと承知しないぞ」と厳しい目を向けている。これは国政を良くするのも望ましいことだ。同時に、任せるだけの実行力を伴った野党も必要だ。国民は自民党がダメなら、別の政党に任せることができる。
欧米はそうした政党が存在している。野党でも政権をとれば現実に即した政治をする実行力があるからだ。「安保法案は憲法違反」などと叫んでいるばかりで、東アジアの厳しい状況に無頓着な、危機感を持っていない政党に委ねる気にはならない。国民はそう考え(感じ)ている。