「二世議員」「タレント議員」の何が悪い --- 選挙ドットコム

(編集部より)選挙ドットコムの人気連載「小池みきの下から選挙入門」からの転載です。



選挙プランナーである三浦博史氏が、唯一議員秘書として仕えた人。それが故・椎名素夫衆議院議員である。椎名素夫氏の父は椎名悦三郎氏。岸信介の腹心として戦前から活躍し、戦後も自由民主党副総裁、外務大臣、通商産業大臣などの要職をいくつも歴任。“椎名裁定”で有名な政治家だ。素夫氏は、いわゆる二世議員ということになる。

【三浦氏】
「椎名先生は本当に素晴らしい人でしたね。名古屋大学理学部物理学科を卒業した学者肌の人でね。僕が秘書になったのは28歳のときですが、大変貴重な勉強の機会を与えていただいたと感謝しています。本当にお世話になりました」
【小池】
「もともとはどのように知り合われたんですか? 三浦さんは、秘書になるまでは銀行にお勤めだったんですよね」
【三浦氏】
「僕と椎名先生との繋がりは、学生時代から参加している国際交流活動です。上智大学国際部大学院に入り、留学生を支援する活動にも参加していたんですよ。パーティシペーションといって、主にチャリティコンサートを開いたり、寄付を募ったりして、その収益を留学生への緊急支援金に充てることが主な活動でした。その代表者が椎名素夫先生だったんです。僕は学生時代から今に至るまでずっと国際交流には関わり続けているんだけど、その中で痛感したのが、『voluntary(自らの喜びが語源)』の大切さ。日本だと、『無償でやるのがボランティア』だと思っている人が多いでしょ。でも本当はそうじゃない。有償か無償かに関係なく、『ありがとう』と思えることがボランタリーなんです」

「ボランティア(volunteer)」の語源といわれるラテン語、「volo」や「voluntas」には「自由意志」という意味がある。そしてフランス語の「volunte」なら「喜び」だ。

【三浦氏】
「選挙においても結局、本当に大切なのはボランティア精神ですよ。またアメリカとの比較になってしまうけど、僕が感じたアメリカと日本の選挙の違いの一つは、そうした本来の意味でのボランティアの数の差です。日本の選挙はとかく“強制的”に動員することが多い。たとえば松田さんが、立候補を視野に集会を行うとするね。そうすると僕が、『よし、三浦商店からは30人出してやろう』と言って、部下に『松田の集会に行け』と号令を出すわけ。部下である小池さんは断れず、仕方なく松田さんの集会に出席する。……ここにはボランティア精神なんてないでしょ。パワハラに近いものがあるよね。中には本当に行きたいと思う人もいるかもしれないけど」

1979年(昭和54年)。椎名素夫氏は、第35回衆議院議員総選挙に出馬する。その父、椎名悦三郎氏が政界引退を決意したためだ。
【三浦氏】
「その時に椎名先生が『ぜひ手伝ってほしい』と僕に声をかけてきたわけ。僕は銀行員として何の不満もなく働いていたし、政治の道に進みたいという気持ちもなかったけど、先生が素晴らしい人だったので、喜んで力になろうと思い、すぐ承諾しました。6月のことだったかな。選挙が9月だったから、銀行を8月でやめてね。有休も使って、7月からすぐに手伝い始めて、当選と同時にそのまま秘書になったんです」
【小池】
「安定した銀行員生活をすぐに捨てられるほど、立派な方だったんですね……」
【三浦氏】
「そうです。でも、最初の選挙の時は世襲批判がすごくて。僕と椎名先生が電車や飛行機に乗っていると、何度もマスコミの記者に囲まれ、イヤミなことを聞いてくるんですよ。『椎名悦三郎先生は世襲批判をしたのにどうしてその息子が出るのか……という多くの市民の声がありますが、その批判にどう答えますか?』なんてね。それをガードするのが最初の仕事だったかも(笑)」

二世議員への批判は根強い。選挙には「地盤(支持組織や地縁)」、「看板(知名度)」、「カバン(資金力)」の“三バン”が必要だとよく言われるが、二世議員はこれらを得やすい(親のそれをそのまま引き継げるため)ため、「実力がないのに、親のコネや資金力で当選しやがった」というような見方も容易なのだ。
【三浦氏】
「でも、民主主義国家で、出生や出目で差別されるようなことがあっちゃいけない。当然のことですよね? 『二世だから選挙に出るべきじゃない』なんていう理屈が通るわけがない。どんな出自だろうと優れた人は優れた人なんです。二世とか官僚、タレントが立候補するというと、とかく批判されがちだけどおかしなことだよね。ロナルド・レーガン(元カリフォルニア州知事・第40代米大統領)だってクリント・イーストウッド(共和党員)だって元俳優だし、ケネディもブッシュもヒラリーも二世だったり、親族でしょう」

三浦氏は当然のように笑う。
【三浦氏】
「選挙はね、『その人物がいかに一人でも多くの有権者に知られ、印象に残るか』が全てなんです。みのもんたさんとかビートたけしさんとか、池上彰さんとかが選挙に出たら、一般論として勝つに決まってるよ。ただ、有名・著名人でも、候補者としてどう評価されるかは別問題。知名度や認識度はその人固有の、立派な力なんです。選挙はとにかく『人』です。二世だから、俳優だから、歌手だから、官僚だから駄目だなんて笑止千万です。一体誰がその人を駄目と決めるのか。決めるのは有権者でしょう」

選挙は人――。選挙の現場を、人の移ろいやすい心も含めて知り尽くしている三浦氏が言うからこそ、その言葉はとても響いた。「元タレントのくせに」と叩かれているあの人やこの人の顔が浮かぶ。でも、彼らを「選んだ」のは誰だっただろうか?

小池みき:ライター・漫画家
1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。


編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年9月29日の記事『「二世議員」「タレント議員」の何が悪い。(小池みきの下から選挙入門)』を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。