パレスチナの国旗掲揚式の「話」 --- 長谷川 良

ウィーンの国連広場で12日午後3時(現地時間)、パレスチナの国旗掲揚式が挙行された。国連のオブザーバー国の国旗掲揚式を承認した9月10日の国連総会の決定に基づくものだ。ニューヨークの国連本部では先月、パレスチナの国旗掲揚式が行われた。水平3色旗(上から黒、白、緑)で、旗竿側に赤色の3角形が描かれているパレスチナの国旗は10月のウィーンの空に掲げられた。


▲国旗掲揚式で挨拶するパレスチナ自治政府のアル・マルキ外相


▲ウィーン国連で掲揚されたパレスチナ国旗(2015年10月12日、ウィーンの国連広場で撮影)

掲揚式に参加したパレスチナ自治政府のリヤド・アル・マルキ(Riad Al-Malki)外相は国連関係者に感謝の辞を述べ、「パレスチナは主権国家へ更に一歩踏み出した」とその意義を強調し、「パレスチナ人は占領状態から解放され、完全な主権国家を実現するまで困難を乗り越えていく」とその決意を表明した。
式典にはウィーン国連代表のフェドトフ国連薬物犯罪事務所(UNODC)事務局長が参加し、パレスチナの国旗掲揚を歓迎するスピーチを述べた。国連職員やウィーン居住のパレスチナ人も招かれ、国旗掲揚式を共に喜び合った。

国連総会は12年11月29日、パレスチナを「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案を採択。パレスチナを国家承認している国は既に130カ国を超える。パレスチナは2011年10月末、パリに本部を置くユネスコ(国連教育科学文化機関)に加盟し、今年4月1日には国際刑事裁判所(ICC)に正式に加盟し、国際社会での地位向上に努めてきている。

ところで、ウィーンからパレスチナとイスラエルの中東の現状に目を移すと、楽観的にはなれない。エルサレム旧市街の聖地を巡って、ユダヤ人とパレスチナ人が9月に入り、衝突を繰り返し、これまでにユダヤ人4人、パレスチナ人20人以上が死亡した。
今月に入ると、ヨルダン川西岸とエルサレムで、パレスチナ人がユダヤ人を殺害する事件が発生。今月9日には、パレスチナ自治区ガザの住民がイスラエル側に投石し、ガザからロケット弾が撃ち込まれるとイスラエル軍が報復攻勢に出ている、といったいつものパターンが繰り広げられてきた。

イスラルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長は事態のエスカレートを回避するために国民に冷静を呼びかけたが、イスラム原理主義組織ハマスのガザ地区最高幹部ハニヤ氏は「新たなインティファーダを」と叫ぶなど、事態が収拾できるかは不透明だ。

なお、アッバス議長は先月30日、国連総会の一般討論演説で、イスラエルとパレスチナの和平合意(1933年、オスロ合意)の破棄を示唆し、注目されたばかりだ。オスロ合意は、ヨルダン川西岸地区とガザ地区をパレスチナ自治区と承認するものだ。

米政界の焦点は来年の次期大統領選に移っている一方、欧州連合(EU)はウクライナ危機、難民・移民の殺到に直面し、パレスチナ問題に時間を費やすことが難しくなっている。国連は紛争解決能力を失って久しい。パレスチナとイスラエル両民族を取り巻く和平の見通しは、国旗掲揚式の日の午後の空のようには明るく、すっきりとはしていない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。