ついにマイナンバー制度が導入され、既に詐欺事件まで起きている。マイナンバー制度によって個人にかかわる行政情報が一元化され、それが流出したら大変だ、というブログやSNSを多くみるが、もっと重要な個人情報については自ら進んで差し出している状況に気づいていない人が多い。
インターネットを日常的に使っている人は、グーグルなどの検索サービスを利用していると思うが、誰にも言えない個人的な秘密をググったことはないだろうか。グーグルはすべての検索を一旦保管すると言っている。この検索情報を分析すれば個人の特定はそんなに難しいことではない。ビッグデータのアナリストや統計分析経験者ならそのからくりは簡単に分かるだろう。
さらにGmailなどグーグルのアカウントをもっていれば、すべての情報が紐付けられてしまう。この履歴にかんしては自分で削除することもできるが、削除していない人が多いのではないだろうか。グーグルでは情報流出の事件は起きていないが、AOLでは10年以上前に起きている。万が一、グーグルに保管されている情報が漏洩したら、と考えると非常に怖い。また、漏洩しなくても警察等が裁判所から情報提供の許可を得れば、グーグルは情報を提供しなくてはいけない。
個人情報はインターネット上だけではない。スーパーマーケットや百貨店の顧客カードを持っている人も多いと思う。買い物をするとポイントがつき、そのポイントが溜まったら支払いに使えたり、毎回の買い物が割引になったりする特典がついているあのカードだ。特に大型スーパーマーケットの顧客カードは気をつけて欲しい。日々の食卓に上るお料理の材料や衣料品等、その店で買ったすべての商品が顧客カードと紐付けられて保管される。このデータを3ヶ月程度集めて分析すれば、その顧客カードの持ち主の生活レベルが分かる。顧客のランク付けや差別化もできる。もちろん顧客カードのみではなく、クレジットカードだって同じような情報が収集される。
これら日常生活において自らが無意識もしくは意識的に個人情報をちょっとずつ提供し、それを貰った業者が情報を蓄積して分析することにより個人の生活は丸裸にされる。個人情報保護法で保護されるのは、氏名、生年月日その他の記述等により、特定の個人を識別することができるものであるが、ビッグデータの解析を行えば、保護される個人情報のみならず、その人の生活が丸分かりになる。
筆者は、会社員時代に某コンピュータメーカでスーパーマーケット向けの顧客管理システムを開発したことがあり、その後、インターネット・データセンターやWebサービスに関わるいくつかの団体で役職を得たこともあり、デジタル社会における個人情報取り扱いの現実をインターネットの歴史と共に見てきた。個人は利便性や目先の利益などと引き換えに簡単に個人情報を渡してしまう。例えば「駐車場が毎回1時間無料になるから顧客カードを作ろう」と顧客カードを作る。企業はこの顧客カード情報と購買情報を結びつけて保管し、イベント時のDMなどに利用する。企業におけるこの行為は顧客カードを作る時の申込書に契約内容として記載されているが、それを気にする人は少ない。顧客は個人情報を提供しない選択ができるのに1時間あたり千円以下の駐車場代でそれを簡単に放棄してしまう。もしくは、図書館等で本を調べればグーグルに検索履歴を保管されないのに、圧倒的な利便性の前では個人情報漏洩のリスクは忘れ去られてしまう。
行政の個人情報管理強化に反発したい気持ちは分かるが、その裏で民間企業にいとも簡単に個人情報を渡しているのは滑稽である。お気をつけ召され。
齊藤 豊(大妻女子大学人間関係学部教授)