韓国紙・中央日報日本語電子版によると、米国を公式訪問中の朴槿恵大統領は15日、ワシントンで、「11月初旬に日韓中の首脳会談が開かれる時、日韓首脳会談も開催されると思う」と述べ、「日韓首脳会談も慰安婦問題に前進があれば意味ある会議となる」と語ったという。
同じ日、在米ベトナム団体がワシントンで記者会見を開き、ベトナム戦争(1960~75年)当時、韓国軍兵士から性的暴行を受けたというベトナム人女性らが、朴大統領に謝罪を求めたという記事が産経新聞電子版に報じられた(韓国軍はベトナム戦争時、最大約32万人の兵士をベトナムに派兵)。
韓国軍兵士の犠牲となったベトナム女性の証も掲載されていた。以下、紹介する。
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66歳の女性は、「薪を集めていたときに兵士に襲われた。その後妊娠し1970年に出産した。働くこともできず、子供に教育を受けさせることもできなかった」と訴えた。
また、60歳の女性は、「家族でお茶やバナナなどを売る店を営んでいた。韓国兵士が来て母親が暴行され妊娠し、69年に男の子を産んだ。その後、私も暴行を受け71年に息子を出産した」と証言した。
産経新聞によると、被害者を支援するノーム・コールマン元上院議員は被害者の数を「数千人」と見積もり、このうち生存しているのは「約800人」だと説明している。同団体は、15日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルに、被害者に対する公式な謝罪を朴大統領に求める広告も掲載したという。
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上記の話は訪米中の朴大統領にも報告されたと思うが、大統領の反応は伝わっていない。韓国の主要メディアも訪米中の大統領の言動をフォローするのに精一杯でベトナム女性の抗議については見逃しているか、恣意的に無視している。韓国軍がベトナム戦争時、南部サイゴンに慰安所を設置していた、という内容の米公文書を週刊文春(4月2日号)がスクープ報道した時もそうだった。韓国政府は無視した。
朴大統領は就任以来、慰安婦問題を女性の人権蹂躙と受け取り、日本を批判し、「慰安婦問題が解決されない限り、安倍晋三首相との日韓首脳会談に応じることは出来ない」といった頑迷な姿勢を取ってきた。
ベトナム女性の謝罪要求は女性の人権蹂躙問題だ。なぜ、朴大統領は訪米中とはいえ、その抗議の声に応えないのか。大統領が無視を続けていると、「朴大統領の慰安婦発言はやっぱり単なる反日プロパガンダに過ぎず、女性の人権蹂躙云々ではなかった」といわれても致し方がなくなる。
ところで、朴大統領は15日、ワシントンDCで開かれた「韓米友好の夜」行事に出席し、ジョン・ケリー米国務長官と共に挨拶したが、その場で、「韓国は米国が誰より信頼できるパートナーであり、韓米同盟は米国のアジア太平洋リバランス(再均衡)政策の核心軸」と述べたというニュースが流れてきた(聯合ニュース)。
ここで注意しなければならない点は、ケリー国務長官が、「韓国は米国が誰よりも信頼できるパートナーだ」と言ったのではなく、朴大統領が語ったことだ。ホスト側の米国から、「誰よりも信頼できるパートナーです」とお世辞の一つでも言ってほしいが、そうではなかったので、自分から口に出したのだろう。それは韓国が日米韓3国の中で置かれている立場を象徴的に表示しているように思える。
朝鮮日報日本語電子版(14日)には、「日本を偏愛する米国、韓国にも戦力的価値に見合う待遇を」というタイトルのコラムが掲載されていた。その直接の背後には、韓国国産戦闘機(KFX)開発事業で米国が保有する戦闘機技術の韓国への移転を米国が拒否していることだ。今回も韓国側は米国に強く要請したが、米国は「アクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダーなど4件について安全保障上の技術保護」を理由に移転を拒否した(聯合ニュース)。少なくとも、米国は「誰よりも信頼できるパートナー」としては韓国を見なしていないわけだ。
それにしても、朴大統領は絶好の機会を逃した。ワシントンでベトナム女性たちの抗議に耳を傾け、女性らの人権蹂躙に謝罪を表明し、ローマ法王フランシスコが聖職者による未成年者への性的虐待の犠牲者の話を聞き、涙を流したように、朴大統領が涙するならば米国内できっと大きな反響を呼び起こし、極東のゲストに対する評価は急変しただろう。その上、旧日本軍の慰安婦問題に関する発言は真摯なものだったとして改めて評価されたかもしれない。
米国民は自身や自国民の不祥事に対して正直に対応する人間を見捨てない。戦争で多くの成果を上げた兵士より、たとえ捕虜となっても最後まで信念を捨てなかった兵士をむしろ英雄と称える国民だ。米国人は嘘を嫌い、弱さを正直に告白する人間を受け入れる一方、それを隠す人間に対しては容赦なく批判する。
朴大統領が米国人の国民性を理解し、ワシントンで抗議するベトナム女性らの前で、「私は旧日本軍の慰安婦問題で日本政府を激しく批判してきました。しかし、わが国の兵士もベトナム戦争では多くのベトナム女性を悲しませたことを知り、心から謝罪を表明します」と述べていたら、その謝罪表明は米国民の心を必ず打っただろうし、遠く離れた日本でも大きな反響を呼んでいただろう。ひょっとしたら、米国は韓国を「誰よりも信頼できるパートナー」と考え出していたかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。