IPI「韓国検察の危険な過剰反応」 --- 長谷川 良

アゴラ

ウィーンに本部を持つ国際新聞編集者協会(IPI)は20日、朴槿恵大統領に関するコラムの中で同大統領の名誉を棄損したという理由から産経新聞の加藤達也前ソウル支局長を懲役1年6カ月を求刑した件について、スコット・グリフェン(Scott Griffen) 言論自由計画局長の「韓国検察当局の非常に危険な過剰反応」(dangerous overreaction)という論評を発表した(IPIは1958年、言論の自由を促進し、その権利を擁護する目的で設立された世界的組織。本部はウィーン。120カ国が参加している)。

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▲IPIのロゴ

昨年8月に産経新聞に掲載された問題のコラムは、旅客船「セウォル号」沈没事故(昨年4月)当日の朴大統領の所在について、韓国紙の記事などを引用する形で紹介し、論評を加えたものだ。

それに対し、韓国の聯合ニュースは「検察当局は、加藤被告が証拠もないのに、大統領が不適切な関係があったかのように示唆し、朴大統領の名声を不法に毀損したと判断した」(Prosecutors concluded that Kato had unlawfully damaged Park’s reputation “by indicating without any proof that [she] had improper relations)と報じている。

IPIは昨年10月、ソウル中央地検が加藤前ソウル支局長を名誉毀損で在宅起訴した段階で、「言論の自由を著しく傷つけている。加藤氏に対し刑罰上の名誉毀損(criminal defamation)を適用することは国際法の基準を逸脱している。政府関係者や公人は批判に対して寛容であるべきだ。韓国当局は加藤氏への全ての処罰を即撤回すべきだ」(IPI言論自由マネージャー、バーバラ・トリオンフィ女史)と要求したが、韓国検察当局の求刑に対して、今回、異例の批判を発表したわけだ。

グリフェン局長は以下のコメントを発表している。
The criminal prosecution of Mr. Kato, to say nothing of a possible sentence of imprisonment, is wholly unnecessary in a democratic society such as South Korea and risks casting a wider chilling effect on the media,”
“If there is a case against Mr. Kato, it should be heard in civil court. But being a democratically elected leader means accepting that freedom of expression and the public’s right to scrutinise the actions of those in power may, at times, give rise to unpleasantries. We therefore urge President Park and government prosecutors to consider the broader harm this prosecution could do to free and open debate in South Korea, and drop the case.”

IPIによると、「言論と表現の自由に関する2002年の国連特別審査官の共同宣言、欧州安全保障協力機構(OSCE)や米州機構(OAS)の特別報告書は「刑罰上の名誉毀損を表現の自由の制限に適応することは正当ではない」と明記している。

ちなみに、産経新聞は21日の社説(「主張」)の中で「公人中の公人である大統領に対する論評が名誉毀損に当たるなら、そこに民主主義の根幹をなす報道、表現の自由があるとはいえない。報道に対して公権力の行使で対処する起訴そのものに、正当性はなかった。憲法で言論の自由を保障している民主国家のありようとは、遠くかけ離れている」と強く反論し、来月26日の判決日までに、起訴を撤回するよう求めている。

なお、安倍晋三首相と朴大統領の日韓首脳会談が来月初めに実現する予定だが、その時、朴大統領は加藤氏の裁判問題について、「裁判で如何なる判決が下されるとしても、私は同氏を恩赦する」と表明し、日本側に両国関係の改善へのシグナルを送る一方、韓国側の面子を守るだろう、と予想している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。