リクルートの会長だった故江副浩正氏が2007年に「不動産は値下がりする」という本を出版され、そこそこヒットしたと記憶しています。江副氏が不動産は下がるとしたのは主に二つ理由があり、規制緩和、埋め立て、用途変更などで新たなる不動産が次々生み出されていること、もう一つは何時かは金利が上がる局面がやってくるから、というものでした。
一つ目の理由についてはその通りで納得できるのですが、二つ目の理由は違う、と思い続け、既に8年が経ちました。江副さんは正にバブル時代に繁栄と地獄を見ているのですが、金融引き締めがトラウマになっていたのでしょうか。
欧州中央銀行の政策会議でマリオ ドラギ総裁がインフレ率の低下を理由に12月に金融緩和にむけた検討方針を示しました。相も変わらず、喜んだのは資本市場でダウや日経平均は大幅に上昇しました。
日本も30日に日銀政策会議で金融緩和の期待がまだあるようです。私は期待の問題ではなく、これ以上、泥沼に足を突っ込まない方がよいと考えますが、黒田総裁は何か一本気というか、頑固な感じの上にあまのじゃく的なところもあり、日銀の王道人事を変えた安倍首相の選択は正しかったのか、もう一度考えなくてはいけないかもしれません。
榊原英資氏。90年代「ミスター円」として金融市場で知らぬ者はなく、今は青山学院の教授の肩書をベースに活動されていますが、氏の近著、「中流崩壊、日本のサラリーマンが下層化していく」は時代が移り変わり、経済の「転換期」に入っていることを指摘しています。ここから類推できるのは今までの常識が非常識になることもあるわけですから歴史的正統派の経済対策から新たな時代にマッチした政策に切り換えなくてはいけないともいえそうです。
ところが巨大な国家や国家の集まりの経済政策、特に金融政策に於いて非常識な手法、全く新しい手法を取り入れることは実に難しいことであります。政策会議が合議という中で委員の過半数が新しい手法を理解し、賛同しなければならないからです。
榊原氏の同書に先進国の長期的なインフレ率の推移の表があるのですが、これをみると一目瞭然ですが、いわゆる高金利時代は82年ぐらいに転換しています。それまでの二ケタ台だった政策金利は一気に2%-6%程度に下がります。その後も緩やかな下落を続け、リーマンショックの時、更に一段下げて今日に至ってます。
私は以前から何度も繰り返していますが、金利は上がり下がりするものですが、今の時代、先進国で5%もの政策金利が適用されることはもうあり得ないと考えています。
実はその理由のもう一つに所得水準が上がらないという点があります。榊原氏によるとアメリカの男性の手取り給与のピークは1973年の50000ドル弱で今日に至るまで40年以上ほとんど変わっていないとのことです。日本でもバブル崩壊後から手取りは着実に減っているのはご承知の通りです。ですが、皆さんが「貧乏になったか?」といえば周りの物価も下がったので大多数の方は生活の不自由さまでは感じていないはずです。(貧困率が日本やアメリカで高いのはその大多数からどうしてもこぼれてしまう層が出来てしまうからでしょう。)
ポイントはここにあると思うのです。生活に不自由はしてない、だからそれを受け入れてしまう、これが今の世の中なのではないでしょうか?ファーストフードやコンビニ弁当を食べている人が「いつかは高級フレンチ」という夢はさほど気がします。(時としては食べたいでしょうが、定常的には勘弁とおっしゃるはずです。)
ただ、私が懸念しているのは先進国のみならず、新興国でも金利低下傾向が顕著であるという点です。中国は人件費増加と共に海外企業からの発注量が張り、輸出が伸び悩むというシナリオでした。金曜日に再び利下げを発表した中国ですが、人件費も上昇しなくなる問題が生じるとみています。韓国ではすでにそれが起きています。
長期にわたる低金利化と人件費の伸びを欠けば、新興国は何時かは先進国になれるという前提が崩れてしまう可能性を示唆しているともいえます。これを見るには一人当たりGDPは良い尺度だとは思いますが、為替次第でどうにでも変化するこの数字もあまり過度な信用はいけないのでしょう。
今は一国内の貧富の差、格差問題が議論のテーブルにありますが、数年もすれば国家間の格差問題に発展するとみています。「富める国、病める国」であります。正にトマ ピケティの話になってしまうのですが、少なくともグローバル化と真逆の内需振興策が今後のキーになる気は致します。
では、今日はこのあたりで。
岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 10月26日付より