2015年10月4日、愛知県小牧市で「現在の新図書館建設計画に関する住民投票」が行われました。結果は、賛成24,981票、反対32,352票。私の地元、愛知県豊橋市でも、2020年の完成を目指し、現在、新しい図書館の計画づくりが行われています。それもあり、この住民投票はとても注目していました。
※住民投票で否決された新図書館(小牧市資料より、アゴラ編集部)
図書館のあり方を問いかけた住民投票
この小牧市の新図書館建設計画は、一年以上前から注目されていました。それは、連携民間事業者に、CCC・TRC共同事業体が選定されたからです。CCCは、TSUTAYAを運営する会社で、佐賀の武雄市図書館の実績から、今、図書館界隈で非常に注目されています。TRC(株式会社図書館流通センター)は、図書館の指定管理最大手。同時期、豊橋まちなかの新しい図書館の整備基本計画も、委託事業者が選定されましたが、その結果は業界紙など一部報道に留まりました。一方、小牧市のCCC・TRC連携事業体の選定は、大きく報道されました。私も新聞で知り、そして注目度の高さをうらやましく思いました。
当時、私は「豊橋に日本一の図書館をつくろうプロジェクト」という活動をしていました。しかし、豊橋のまちなかに新しい図書館ができることへの認知度は低く、5%あるかないか、という体感値でした。それは今でも大きくは変化はしていないと感じています。それに比べると、今回「住民投票」という地方自治において最も大きな動きのひとつにつながった小牧市には、羨望の気持ちさえあります。それが、反対運動が起点でも、市民の半数という非常に多くの人が図書館のことについて、ちょっとでも時間を割いて考えたという事実はとても大きいです。
今回の住民投票が、なぜこれほど大きなことになったのか。投票率とその争点について、少し調べ考えました。まず投票率の高さはすぐに説明がつきました。住民投票は、小牧市の市議会議員選挙と同時に行われていました。では、各市議候補は、大きな争点である図書館について、どう対応したのか。選挙公報を見ると、32人の候補のうち、新図書館についての言及があったのは5人、全員が反対。内訳は共産党が3名、無所属が2名、そして、全員が50億円(または42億円)という金額を明記しています。しかし、住民投票の結果とは逆に、無所属の2人は落選。この結果は非常に興味深いです。まず、32人中、言及がたった5人というのは、この住民投票が非常に機微なテーマであったということです。そして「反対」の姿勢を明確にしても、票に繋がっていない。更に、最も訴えやすいポイントはその金額であったのです。
CCCの図書館参入は“企業誘致”
10年前、私は母校で教育実習をしました。そのとき当時の女子高生に「豊橋に何がほしいか」聞きました。その答えは、スターバックス・マツモトキヨシ・HMV。また、私は昨年度まで商店街マネージャーという仕事で、商店街活性化に関わっていました。ある日、ある商店の娘さんが喜々とした顔で「今日となり町のイオンモールに行ってきた!」と自慢気に話をして来たとき、複雑な気分になりました。しかし、これが現実です。
昨今のCCCによる図書館参入は、指定管理か自治体直営かという課題とは、質が異なると感じています。どちらかと言えば、企業誘致に近い。そして、住民がほしいものは、TSUTAYAではなくスターバックスです。なぜなら、TSUTAYAはもうある。都会の人にはわからないかもしれないが、それだけスターバックスは憧れの存在です。
よく地方に「独自性」が求められますが、それは、外の人の意見です。住んでる人は「みんなが持っているものが私もほしい」のです。だから、女子高生がスターバックスに憧れたり、若い子が豊橋にもイオンがほしいと言うことを否定できない。それは素直な気持ちであり、それだけ、それらの施設は洗練されており、魅力的なのです。都会人が普段、スターバックスやイオンに行きながら、地方に行くと「郊外はどこも同じ」と言うのは横柄です。
2つの役割で揺れる現在の図書館
さて、あなたは自分のまちの図書館が自治体直営か業務委託か指定管理か、ご存知ですか?残念ながら、多くの利用者は、そこに注意を払っていないでしょう。先の連携事業体に与するTRCは国内で400を超える公共図書館に関わっています。もちろん、他の事業者もある。だから、あなたのまちの図書館に民間事業者が関わっている可能性は大いにあります。
今、図書館は大きく2つの役割の間で揺れています。
一つはこれまで図書館が担ってきた「知のセーフティネット」として情報的な役割、THE図書館。もう一つは、最近求められつつある新しい「居場所」や「にぎわいの創出」という空間的な役割、ニュータイプな図書館。THE図書館については、これまでの積み上げもあり、専門家・専門機関にその強みがある。一方、ニュータイプな役割については、必ずしもそうではない。これまで通りのTHE図書館を指向するのは、図書館で働いている方や、THE図書館の愛好家な方々。多くの人は変化を迫られることを恐れます。一方、ニュータイプが指向しているのは、これまで図書館に来なかったような人たちです。
図書館は今、過渡期だ
最近、私がこわいと感じているのは、THE図書館な方々の団結力と排他性です。
私自身ブログで豊橋市の新しい図書館について度々記しているのですが、それについて、否定的な取り上げ方をされるのは、ほとんどが市外の方々。一方で、好意的な反応は、市内の方々から感じます。しかし、情報的な役割と空間的な役割は、全く両立可能だと考えています。例えば、豊橋の新しい図書館は、中央館ではなく地域図書館です。これまで通りのTHE図書館的な役割は引き続き、中央館が担います。だからこそ、新しい図書館では、よりチャレンジングな取り組みがしやすい環境であると考えます。
今、図書館は過渡期です。変化に衝突や試行錯誤はつきものです。それを恐れない地域からきっと魅力的な新しい図書館は生まれます。そして、それは図書館に留まらず、そういう地域が「生き残る地域」となるでしょう。
長坂尚登 愛知県豊橋市議会議員(無所属)、内閣官房地域活性化伝道師
公式サイト
編集部より:この記事は、愛知県豊橋市議会議員、内閣官房地域活性化伝道師の長坂尚登氏に依頼し、全国的な話題になった小牧市の新図書館建設問題に関する論評を寄稿いただきました。長坂氏に心より感謝いたします。