待機児童増加の、意外な犯人は --- 駒崎 弘樹

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【区役所の現場で】
先日、ある区の担当者と会って驚きました。
担当者「来年度、小規模保育は3カ所開設予定で公募します」
僕「待ってください。この区は100人を超える待機児童がいます。小規模保育は1園12人定員で、3カ所作っても36人。もっと作っても良いですよね?」

担当者「はい、でも3カ所と決めたんです」
僕「3カ所の根拠は?」

担当者「いや、それはまあ、そのくらいかな、と。予算の限りもありますし。」
僕「ご存知ですよね?子ども子育て新制度では、かつては自治体が公募する枠の数しか園が作れませんでしたが、一定の基準をクリアしていれば事業者が開園することを止められないようになりました。自治体のスピードでは待機児童の解消は到底無理だからです。よって、僕たちが5園目、6園目を法的には作れるんですよ?」

担当者「はい、知っていますよ。でも、初期補助は出しませんよ?運営補助は国から出ているので、自動的に支払われますが、初期補助は自治体の裁量です。勝手に開園いただいても良いですが、初期補助を出すのは、公募に手を挙げられた団体だけです」
僕「それを自前で用意するとなると、月々の利益で返さないといけません。小規模保育の利益額は高くなく、初期費用をペイするのに1年半くらいかかるでしょう。さらに今、オリンピック需要で資材費が約2倍になっています。するとそれは倍に伸びる。それでは、普通やれませんよね?」

担当者「はい、ですので、公募に手を挙げて頂かないと」

と、こういうやり取りだ。(複数の区とのやりとりを一つの区の話にしています)

つまり、事業者側は開園できるのに、自治体側が開園を抑制しているのだ。
2015年度に施行された子ども子育て新制度は、それまでの「社会主義的」保育園配給制を転換すべく、事業者が一定の基準をクリアしていれば自由に開園できるように定めた。

しかしその革新的な試みは、自治体サイドによってスポイルされつつある。

ちなみに自治体担当者側は、よしんば待機児童が解消できなくても2年後は違う部署に異動になる。責任も問われない。よって、積極的にリスクをかけて事業者参入を促すよりも、「間違いのない団体」に来てもらって、「園は増やしたが、それ以上にニーズが増えたから無理だった」と報告する方が、理にかなうことになる。

【解決策:「保育所等臨時創設基金」】
こうした、「悪意のないインセンティブ設計の失敗」を克服するためにはどうしたら良いだろうか。
現在の、基礎自治体から初期補助をもらって開園する、という第一トラック以外の道、サブトラックを用意することだ

数年前に「安心こども基金」という基金を国が設立し、都道府県に設置し、保育所開園を後押ししたことがある。100%国の負担だったため、基礎自治体の持ち出しはなかった。これと同様のものを「保育所等臨時創設基金」として時限的に都道府県に設置し、基礎自治体の意向に関係なく、事業者が活用できるようにすれば良いのだ。

基礎自治体が、根拠なく「今年度は3園なんで・・・」と言っても、例えば都で開設初期予算があるので、都に申し込み、外形基準をクリアしていれば開園ができる。基礎自治体の不作為をカバーできる仕組みだ。

子ども子育て新制度によって、保育所数は劇的に増えた。(特に小規模保育は一気に1655園に)
しかしニーズが開拓され、入園申し込み数も大きく増え、結果的に待機児童は増えた。

これから待機児童解消のスピードを加速しなくてはならない。
しかし残念ながら基礎自治体に、スピードを加速させしめるインセンティブ設計に、子ども子育て新制度は失敗した。

そのバグを埋めるパッチが、この「サブトラック整備」である。

さぁ、厚労省の皆さん、デバッグの時間です。一発で理想的に動く制度もないので、一緒に穴塞いでいきましょう。


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編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2015年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。