久しく報じられてきた日韓首脳会談が2日午前(現地時間)実現したが、共同発表も記者会見もなかったばかりか、昼食会もなかった。当方はこのコラム欄で首脳会談開催直前、必死に「昼食会」の重要性を訴えたが、残念ながらその願いは韓国大統領府には届かなかった。
▲韓国料理のブルコギ(韓国観光公社のHPから)
もちろん、28時間余りのソウル滞在中に安倍晋三首相一行は断食していたわけではない。少なくとも数回、韓国の伝統料理に舌鼓を打たれたことだろう。しかし、朴槿恵大統領主催の昼食会はなかったという事実はやはり消すことはできない。当方は「安倍(首相)さん、パブ・モゴッソ」(2015年10月30日参考)の続編として安倍首相の“食事の恨み”を書くつもりはない。首相は昼食会に招かれなかった程度で気分を害される小さな器の人ではないと信じている。
朴大統領と3年半ぶりの日韓首脳会談を無事終えた安倍首相はソウル市内の「焼き肉店」でちゃんと昼食をされている。日本メディアの取材班によると、「韓国牛の霜降りロースのセットと味付けカルビ」だったという。典型的な韓国料理だ。
重要な点は、安倍首相が首脳会談後、昼食会もなく淋しくソウルを後にされたのではなく、首脳会談の時間よりも長い時間(1時間45分)をソウル市内の焼き肉店で過ごし、韓国料理を堪能されたという事実だ。
安倍首相一行には「焼き肉店」ではなく、ソウルの日本レストランで食事をするという選択もあったはずだ。しかし、首相一行は韓国国民が愛し、誇る韓国料理の焼き肉(プルコギ)を食べるために「焼き肉店」に行った。同レストランを選ばれた駐韓国日本大使館の配慮を先ずは称えたい。大きな外交だ。
外交は、首脳会談のテーブルやその準備協議で行われるだけではない。先のコラムでも言及したが、食事の時が大きな役割を果たすのだ。だから、繰り返すが、朴大統領は本来、外交部のプロトコールを無視して安倍首相と食事を持つべきだったのだ。しかし、首脳会談は昼食会なしで終わった。今更文句を言っても意味がないが、食いしん坊の当方はどうしても不満の一つでも書きたくなるのだ。
話を「焼き肉店」に戻す。駐韓国日本大使館がソウルの日本レストランに首相一行を招いていたら、日韓首脳会談は失敗に終わっただろう。安倍首相はソウル最後の食事を韓国料理を食することで閉じたのだ。それだけでも、首脳会談の内容が不十分だったとしても、それを補うのに十分だろう。後世の歴史家は3年半ぶりに開催された日韓首脳会談について、「両国関係の修復へ一歩踏み出すものであった」と評価するだろう。ひょっとしたら、ソウルの「焼き肉店」の昼食についても言及するかもしれない。
最後に、食事の美味しさについてだ。どのような豪華な昼食会であったとしても、ホスト主催の食事会は神経を使うものだ。英国を公式訪問した中国の習近平国家主席がロンドンのバッキンガム宮殿で、 エリザベス女王主催の晩さん会に招かれたばかりだが、公式の食事の場は肩がこるだけで、食事を味わうことなどはできない。乾杯ひとつにしても式典のルールがある。お腹が空いたといって、目の前の食事に直ぐに手を出すわけにいかない。その点、大統領府内ではなく、市内の「焼き肉店」で知人らと囲まれ、神経を使うことなく、焼き肉を食べるほうが数段、食事を楽しむことができるだろう。
安倍首相はソウルの日韓首脳会談という厄介な課題を無事閉じられたことを、日本国民の一人として歓迎したい。安倍さん、ソウルの焼き肉は美味しかったですか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。