11月22日に大阪市長選、大阪府知事選(いわゆる「大阪ダブル選」)が投開票される。ダブル選の結果は与野党に一定の影響を与えるとみられており、永田町の住人たちも注視している。ダブル選は中央政界の動きとどう関係するのか。ポイントは、橋下徹大阪市長の「政治生命」である。
市長選の勝敗で決する橋下氏の政治生命
ダブル選で特に注目されているのは、11月8日に告示された大阪市長選である。
市長選は橋下氏の任期満了に伴うもので、告示前から有力2候補の接戦が伝えられている。橋下氏の後継である吉村洋文氏と、与野党が相乗りで推している自民党元市議の柳本顕氏だ。
吉村氏が勝利すれば、政界における橋下氏の求心力は一定程度維持される上、近い将来の「政界復帰」につながる。柳本氏が勝てば、橋下氏の影響力は低下し、橋下氏自身が〝宣言〟した通り、「政界引退」が決定的となる。
大阪にとどまらず、全国で「維新旋風」を巻き起こした橋下氏のパワーが温存されるのか、失われるのか。永田町の関心は革命児・橋下氏の「浮沈」の1点に集中しているといっていいだろう。
仮に橋下氏の後継候補が勝利した場合、橋下氏が結成した国政新党「おおさか維新の会」(19人)の求心力が高まるのは確実だ。少数ではあるが、橋下氏の「親衛隊」のような存在であり、団結して行動すれば野党戦線をかき回すこともあり得る。さらに、維新の党から離党した中間派の無所属議員(6人)から、おおさか維新の会に参画する議員が出てくる可能性もある。
橋下氏の浮沈と各党への影響
与野党との関係を整理すると、安倍政権寄りの橋下氏と敵対する民主党は、市長選での後継候補勝利にがっかりするだろう。橋下氏の政治力が残ることは、自分たちが目指す野党結集の障害になると考えるからだ(注・民主党内には橋下氏との連携を模索する勢力もいるが)。
民主党は引き続き、松野頼久代表らの維新の党(26人)との連携を加速させていくことになるが、おおさか維新の会が息を吹き返せば、維新の党とおおさか維新の会の「分裂抗争」がさらに激化することも想定される。橋下氏の後継に負けて欲しい、と思っているのが民主党である。
一方、おおさか維新の会も維新の党も、政党交付金をめぐる醜い「ケンカ」で国民の反感を買っており、そもそも、ダブル選の影響は限定的との指摘もある。
気になるのは、政府や自民党との関係だ。ややこしいことに、安倍晋三首相や菅義偉官房長官は、橋下氏やおおさか維新の会に内心では好意を寄せている。しかし、自民党大阪府連にとっては橋下氏は憎き敵でしかない。
橋下氏は表向き「政界引退」を約束しているが、近い将来の「政界復帰」するとの見方は根強い。そして、政界復帰した橋下氏が政府に近づくことは容易に想像できる。最近では、安倍政権の閣僚になるとの噂も流れているほどだ。政府・自民党にとっても、橋下氏の「浮沈」は大きな関心事なのである。
では、橋下氏の後継候補が負けた場合はどうなるのか。
民主党は、おおさか維新の会の力が弱まることは大歓迎だ。橋下氏と激しく対立する共産党にも吉報だ。維新の党も、自分たちが「正統」と思っているから拍手喝采だし、自民党も、大阪選出議員を中心に喜ぶ。ちなみに、安倍首相は面白くないはずである。
大阪ダブル選後をにらみ新党結成?
さて、偶然とは面白いもので11月、12月は政界の風物詩である新党結成シーズンでもある。これは、各政党に国庫から支払われる「政党交付金」の金額が、毎年1月1日時点で決まるためである。12月末までに政党要件を満たして総務省に届け出を済ませておけば、翌年から政党交付金がもらえるという仕組みだ。1月2日に総務省に届け出ても、その次の年まで1年間も政党交付金が支給されない。
ちなみに、公職選挙法で定める「政党」の要件は
1)所属する国会議員が5人以上
2)直近の国政選挙での得票が全国の有効投票総数の2%以上
となっており、いずれかを満たす必要がある。
以上を踏まえれば、大阪ダブル選の結果が出る11月22日から、12月31日までの間に「駆け込み」で新党結成を目指す議員が出てくるかもしれない。
しかしながら、野党各党には新党結成を含めた「離合集散」を繰り返すほどのエネルギーはない。民主党と維新の党の合併の見通しは立っていない上、民主党が分裂する気配はゼロだ。無所属議員たちが5人以上の国会議員を集めて、政党交付金目当ての小政党をつくるのがせいぜいだ、というのが玄人の見立てである。
2005年以降、11月、12月の2カ月間に結成された新党は6党あったが、結成時の「名称」で存続している政党はひとつもない。国民の目は厳しいのである。
永田一郎
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年11月日の記事『引退するって本当ですか??橋下徹の「政治生命」を、大阪ダブル選から徹底分析してみた』を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。