米サッカー協会によるヘディング禁止措置の衝撃 --- 鈴木 友也

今週月曜日、米サッカー協会(USSF)が10歳以下の選手のヘディング禁止などを含む、脳震とうに対する安全策を発表しました。これは、昨年起こされた訴訟に端を発したものです。

※米国が発端となった子供の「ヘディング禁止」。日本にも広がるのか(アゴラ編集部)
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訴訟では、協会が脳震とうの危険性を知りながらも適切な対応と取らなかったとしてその責任を問うものですが、米国ではこうした脳震とう訴訟はサッカーに限らず、たくさん起こっています。

特に脳震とうの危険性を早くから指摘されていたのがフットボールで、既にNFLはOB選手らにより起こされた訴訟に和解しており(2013年に公判開始、2015年に和解成立)、その和解金額は7億6000万ドル(約912億円)を超えます。NCAAなどでも同様の訴訟が起こっており、これがアイスホッケーなどにも広がりを見せています。

米国では、こうした脳震とう訴訟がフットボールから他競技に、トップ(プロ)から大学、高校などのアマチュアボトム層に急拡大しています。脳震とうが米国のスポーツ界を変えつつある状況については、過去にYahoo!や日経ビジネスにも寄稿しています。

本当は怖いスポーツでの脳震とう(Yahoo!ニュース個人)
アメリカの試合から迫力が消える?~けが防止に走る米スポーツ界の裏事情(日経ビジネス)

これまでスポーツにおける脳震とうの危険性については、医学データもなく検証されずにいたのですが、Yahoo!のコラムにも書きましたが、UCLAによる最近の調査では、脳震とう直後の選手の脳は植物人間の脳と同じ状態ということです。そして、最初の脳震とうが完治する前に再度脳震とうが起こると脳に致命的なダメージを与える「セカンドインパクト症候群」も分かって来ています。

こうした中で、各スポーツ統括組織や学校管理団体などが脳震とうの予防や起こった際の対処(サポート体制の充実や復帰手順の明確化など)について積極的に対応を行うようになってきたのです。米国の場合、危険性を知りつつ対処を怠ると、即訴えられるので、訴訟リスクが大きな原動力になっています。

で、話をUSSFに戻すと、詳細な安全対策は今月末に発表されるようですが、10歳以下の子供はヘディングを禁止とし、11歳から13歳の子供は練習中のヘディングの回数に制限をかけるとのことです。この安全指針は、USSFの傘下にあるアンダーの代表やアカデミー、MLSのユースチームに適用され、傘下にない場合は推奨と言う形になるようです。

米国でのサッカーの競技人口は世界一ですが、その大きな理由の1つは「サッカーは安全」という安全神話が親の間にあったためでした。しかし、データで検証してみると、実はイメージ程安全ではなく、脳震とうは特にヘディングで起きやすく、また男子サッカーより女子サッカーの方が脳震とうリスクが高いことなども分かって来ています。

サッカーは協会傘下に全ての関連組織がまとまっているという事情もあったのだと思いますが(USSFが訴えられれば、結果的に米サッカー界全体が変わらなければならなくなる)、米サッカー界は非常に素早い対応を取ったと思います。こうした訴訟が他のスポーツにも広がって行けば、ユースではフットボールでタックルなしになったり、野球でスライディングが禁止されるということも、将来的には大いに有り得るのではないかと思います。


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編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2015年11月12日の記事を転載させていただきました(画像はアゴラ編集部で担当)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。