なぜテロを肯定してはいけないのか?という話について --- 宇佐美 典也

パリでのテロ事件に関連して、一部の人が

「パリの死を悼んで、アラブで日常的に起きている死を悼まないのは先進国の偽善だ。今回のテロはその問題を提起したことに一定の意義がある」

などという趣旨の意見を表明しているので、憤りを覚えている。なのでこれを機につたないながら

 「なぜテロを肯定してはいけないのか」

という根本的なことについて考えたことを少しまとめておくことにしたい。

まず結論から言うと、テロを肯定してはいけないのは、テロが民主主義の普遍的なルールに則っていないからである以下にざくっと民主主義成立の過程についてまとめる。(単純に汎用化しすぎているので一部誤謬もあるかもしれないが、そこはご容赦いただきたい。)

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【自然状態】

人間が社会集団を形成するようになってから、社会集団内での序列を巡る闘争を解決する手段として個人の暴力が、また社会集団同士のいざこざの解決する手段として集団による暴力が日常化した。いわゆる「万人の万人に対する闘争」である。

【王権成立~暴力の独占】

こうした自然状態の無分別な暴力から解放されるため、人間は”政府”による暴力の独占・管理を求め、王国や宗教国家が誕生した。通常こうして誕生した国家は有力豪族の連携帯としての性格が強く、後に豪族や宗教的権威が貴族化した。そして貴族間の協議により法治国家が形成され、それを執行するための機関として官僚機構が誕生した。こうして、民衆は王権に暴力を奪われることで、暴力から解放された。

【王権の打倒~民主主義の成立】

王権の誕生で民衆はその時々の権威に運命を任せる生活を送るようになったわけだが、当然にして権力は腐敗するものなので、王権はしばしば悪政を布いた。その結果市民が奪われたはずの暴力を行使して、王権から権力の奪還を目指す運動が活発化した。いわゆる市民革命である。こうして権力を手にした市民は王権下で成長した官僚機構を再び特定の主体に委ねることを拒否し、その官僚機構を国民共同で統治することとした。すなわち選挙で選ばれた政治家に官僚機構の管理を委ね、自らの権利の保全を図ることとした。こうして国民主権と人権に基盤をおく民主主義が誕生した。

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こうして欧州の一部で誕生した民主主義は数々の闘争を経て、普遍的価値を認められ世界へ普及しつつある。その結果人間は理不尽な暴力から解放されつつあるわけだが、この過程ではフランス革命、二度の世界大戦、植民地戦争、共産主義下の粛清などでおびただしい血が流されてきた。その意味で民主主義は血塗られている。

私たちが今暴力におびえず日々平和に暮らせるのは、自らの命を懸けて暴力と権力に挑戦し続けて「人権」という概念を作り上げ、社会に実装し、世界に広めてくれた、またそのきっかけを作った幾億の英霊のおかげである。今ISILのテロリストたちが試みているのは、こうして成立した「暴力の人民による国家管理」なり「国民主権」なり「人権」なりといった現代民主主義の前提となる英知をぶち壊すことである。

国家の権力の源泉は暴力の独占にある。ただし「暴力は、人権を守るために、国家という枠組みの管理の下で、民主的プロセスを経て使われるなければならない」というのが現代の民主主義国家の大前提である。

一方でテロとは無分別な暴力である。こうした無分別の暴力により主張を広めることは、民主主義の普遍的価値を否定することに直結する。だから民主主義社会に生き続けたいならテロリストの主張に部分的なりとも共感することがあっても、それを認めてテロリストを評価したり、彼らと妥協したりするようなことはしてはならない。

イギリスの中東での三枚舌外交、フランスのアルジェリア弾圧、アメリカのイラク戦争、といった先進国が過去に中東でしてきたことに問題や欺瞞があるのは間違いない。その意味でISILなどの主張には一理あるかもしれないが、彼らの主張は「テロリズム」という手段を用いたという点において否定されるはずだ。

繰り返しになるが無差別・無分別に人を殺しながら権利を主張することは現代民主主義に基づく国際社会では許されない。暴力での闘争を望むなら、国家として戦時国際法に則って非戦闘員の基本的人権に配慮して「戦争」をするべきだが、ISILは国家樹立宣言をしながらもそれさえもしない。

つまるところ「議論による解決」や「戦争」には民主主義に基づく国家の作法があるが、テロリストはその作法から逸脱している。だから戦うしかない。

ということなのではないだろうか。
ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2015年11月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。