地方創生ブームとイケダハヤトは危険ドラッグか

長坂さんのでブログ 「まだイケダハヤト消耗してるの?」へのご回答

イケダさんのような生き方は面白いしむしろすごいと認めてるってのは前回のブログで書いてるし!しかし、少なくとも筆者は真似したくない(真似できない)し、実際にそういう人は多かろう。それなのにイケダさんがご自身の経験を一般化して「都市化(アーバナイゼーション)は終わる」なんておっしゃるから、「それは違うよ」と指摘したまでだ。

長坂さんがおっしゃるように、議論空間に区長だからとか議員だからとかブロガーだからとか研究者だからとか一切関係ない。そうした肩書き論で議論を封じてしまうのは議論の参加者にも読み手にも不誠実かなあという気がする。民主主義が成立する要件はメンバーに正しい見識が広く普及していること。データも何もない「都市化は終わる、地方の時代」という甘言が流布され、21世紀の国家・地方のあり方を模索する建設的な議論が害されてしまわぬよう、筆者は反論を試みたい。

長坂さんの前回のブログにおける主張のポイントは

① イケダさんの言うような「都市集中」は21世紀にストップするという話は「半分正解」。

② 高齢者が激増するのはむしろ東京、大阪などの大都市。「地方創生」は都市高齢者の住み替えをやっていこうとしている。

③ 地方創生は地方を「ふるい」にかける最後のチャンス。出生率の向上や移住者の増加などの「成功」をおさめた地域を除いて、限界集落などのある地方を畳む方向で動いていく。

というものだった。これらについて以下に論じる。


世界的に進む「都市化」。イケダ学説は大誤り。

① については、イケダさんが友達であっても、遠慮せずはっきりと「半分正解」どころか「完全不正解」であると教えてあげた方が良い。人口減少は日本全体を取り巻く現象。都道府県別の人口増減率などをまとめた総務省「人口推計」のうち2003-13年までに人口が増加しているトップ9には、東京の他、神奈川県、愛知県、福岡県、我らが大阪府といった大規模な政令市を含む都道府県が並ぶ。

しかし、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年には2010年対比で全ての都道府県の人口が減少する。それでもなお、上に挙げた5つの都道府県は全国平均を下回るマイナス6-16%程度の減少率であるのに対して、現時点においても人口減少率のワーストに位置する秋田県、青森県、高知県はその倍近い30%前後。つまり日本全体の人口が減少しても、相対的に都市部に人口が多くなる「都市集中」の構図は全く変わらないのだ。

おまけに言っておくと「都市集中」は世界的現象だ。国連のリポートを見ても20世紀の予測より早いスピードで都市居住者が農村居住者より伸びていっていることがわかる。アジアだけを見てもWWⅡ直後は17%程度だった都市人口比率は2005年に40%に達し、国連人口基金(UNFA)が発行する「State of World Population 2007」によると、2030年にはこの率が55%にまで達すると見込まれている。

世界のマーケットからアジアが注目されている現状において、このような傾向を無視した「都市集中は終わる」なんて時代の読み誤りだけはやめた方が良い。イギリスやアメリカ、ロシアが都市集中に躍起になる中、日本も戦後1950-70年代まで三大都市圏に毎年40-70万人近くの人口集中を果たし、これを原動力として欧米を突き放す10%成長を叩き出してきた。

それを止めてしまったのが62年に閣議決定されたのが「全国総合開発計画」。「国土の均衡的発展」というテーゼだ。前のブログで田中角栄元総理の政策を振り返りながら説明したが、要するに経済成長の果実をすみずみまで「分配」する原理として持ち上がった「均衡的発展」が分配原資たる果実をも減らしてしまった。経済成長は半減してしまったし、今の国地方あわせて1000兆円の国家債務の基礎も出来上がってしまった。

かつての「無理」が「均衡的発展」なら今の「無理」は「地方創生」。私は歴史を繰り返されないよう、警鐘を鳴らしているだけだ。

都市高齢者の地方すみわけは社会主義、計画主義的発想。

② について、都市高齢者が増加するのは仰るとおり。だからこそ都市部から非都市部への税移転を止めてほしい。福祉施設の用地に限りがあるので、在宅医療・介護も含めて環境整備を進めないといけないから、ゆるキャラとかで「うぇーい」に使っている財源は返還されるべきだろう。そうではなくて逆に都市高齢者を地方に住み分けることに解決策を見出すのは、あまりにも「無理」がある。
都市部は医療機関もコンビニもスーパーも徒歩圏内に充実している。だからこそ、選択の結果多くの高齢者が都市に居住している。そうした都市高齢者の心理を度外視して、「地方で福祉の供給を増やせば住み分けが起こる」と思い込むのは、社会主義、計画主義的極まりない発想だ。

非都市部の地方は国の金に依存せず、一番初めのブログ「地方創生を止めて地方消滅でいこう!」で書いたように、「消滅」に向けた準備を徹底すべきだ。人口には引越しなどで人口が増減する「社会増減」と出生児数と死者数の見合いでみる「自然増減」という概念がある。今非都市部は「社会増減」にばかり目がいっている定住促進など人口の「社会増」というレッドオーシャンに無為無策に突っ込んでも結果は出ない。目を向けるべきは「自然減」だ。今入る限られた住民が安心して余生を送り、世を去っていけるようムダを削減して、歳入の範囲内で安心安全の予算を組む。就労機会やビジネスチャンスを求める若手は、今既にそうであるように近隣への都市移転を進める。この傾向を「年収は『住むところ』で決まる」で話題になった経済学者エンリコ・モレッティが言うように「移転補助金」なりを出して加速させてしまうというのも良い。そうすれば自然と「下からのコンパクトシティ」ができてくる。

今、富山市などで進んでいるのは国家主導の「上からのコンパクトシティ」。中心市街地活性化計画に基づいて中心市街地に公費投入して商業施設をつくったり、LRTを導入した交通ネットワークを整備したりと移行経費が高くつき、地方債発行も増えている。コンパクトシティのために財政が持続的でなくなってしまったら元も子もない。コンパクトシティも非都市部同士が近隣都市部と連携して身の丈にあった形で進めていくべきだろう。

バリバリの外資系企業とかじゃないんで、そう簡単に「ふるい」にかけるとかできません。

③ については・・・なんというか、業界人であればそうもくろみ通りにまっとうに進まないのがこの業界ってことをわかっておいていただきたいなあと思う。「ふるい」にかけた厳選投資でいくなら、初めから一部自治体に絞ってとかでやるべきだった。腹水本に帰らず。しかし「手上げ式」で幅広く予算を配るになってしまった。一度つけた予算で結果が出せないならば、一気に引き上げる。ビジネスでもなかなかない。かつての大銀行も「失われた10年の中」で収益性が下がっている業種からましな業種へのシフトが進まず、その後に顕在化する不良債権の要因となった。この業界だと「しがらみ」はもっと入り組んでいる。誰が誰を制して「ふるい」を持ち出す胆力のある人なんて、果たして今いるのだろうか?

「地方創生」の甘露に誘われ、しゃぶりつく。

最後ボロボロになったら国のせいにする??

はあ??

危険ドラッグにはまる人たちと全く同じです。

今必要なのは、自治体自身が自らで自らの未来を考え、現実的な一手を確実に打つことだ。

そのゆるキャラで地元守れんの?(プロフ画像、ブーメランwww)

■水谷翔太 大阪市天王寺区長

早稲田大学卒業後、NHK記者を経て、橋下大阪市長実施の公募に合格し、2012年に史上最年少で天王寺区長就任(当時27歳)。

公式ブログ「ありがとう!天王寺