原子力発電の後始末、対策進む(下)-再処理問題

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石井孝明
ジャーナリスト

原子力発電の後始末、対策進む(上)-下北の施設訪問」から続く。

六ヶ所村の日本原燃の工場

9月の下北半島訪問では、青森県六ヶ所村にある日本原燃の施設も訪問した。

日本原燃は1992年に電力会社の出資で設立された。天然ウランを濃縮して原子力発電用の燃料をつくる。さらに核燃料サイクルのための使用済み核燃料の再処理を行い、MOX燃料を製造する。

訪問で印象に残ったのは、この施設が国際的な関心を集めているということだ。所内にはケネディ米大使、フランスなど各国の大臣級の人の訪問写真があった。

ウラン燃料は、原爆の材料になる(詳細は後述)。さらに使用済み核燃料の中に含まれるプルトニウムは毒性が強いことに加えて、核分裂反応を起こしやすく核兵器の材料になる。日本原燃は、濃縮、再処理の両事業で国際的な監視を受け入れることで、この施設の運営を国際的に認められている。これは日本が原子力の平和利用に徹しているために、世界で例外的に再処理を認められている。

ここには国際原子力機関(IAEA)の査察官が常駐している。そして濃縮、再処理双方で、要求があればいつでも原燃は施設を公開する。そしてメディアに取材・公開される場所も限定されている。

民主党政権の2012年夏に内閣府国家戦略室担当の古川元久大臣が突如原発ゼロを表明した後で、同年9月に政権が「2030年代までにゼロを目指す」と、目標を修正する失態があった。原発ゼロの場合には、核燃料サイクルをどうするかという重要な問題が浮上する。ところが、古川氏と民主党は、この問題について事前に考察していなかったようだ。古川氏の表明の後で、施設受け入れに協力した青森県、また米国からどうするのかと問われたことが再修正の一因とされる。エネルギー関係者には自明の知識もなく、重要な政策を思いつきのように決める民主党政権の異様さを、改めて思い出した。

世界最高水準の能力、ウラン濃縮施設

私は、六ヶ所村の原燃の訪問は2回目だった。今回はウラン濃縮の施設を見せてもらった。核分裂のしやすいウラン235と核分裂しにくいウラン238がある。天然ウラン鉱石のウラン235含有率はわずか0.7%程度しかなく、これを3~5%にまで濃縮する。原子爆弾は90%以上にする必要がある。これをウラン濃縮という。

濃縮は遠心分離機により行われる。気化させたウランを高速回転する遠心分離機に入れることで、軽いウラン235を含んだ原料が中心部に集まる。それを集め何度も遠心分離を続ける。工場の見学コースは限定的だった。大きさが分からないように、いくつもならんだ巨大な遠心分離機の一部しか遠望できなかった。

ウラン濃縮の技術は各国が非公開とし、特許もあまり公開していない。日本原燃のその技術は現時点で世界最高水準の効率、生産能力を持つという。核保有を目指す国はこの濃縮でまず行き詰まる。この徹底的な機密保持も当然であろう。

再処理工場、技術問題は克服

次に使用済み核燃料の再処理工場を見学した。核燃料で成分が変性するのは5%程度だ。それを再利用する。燃料はせん断し、プルトニウム、ウランに分離、精製して回収する。そしてどちらにも再利用できない核分裂生成物はガラス固化体にする。プルトニウムは単体で取り出せないようにウランと混合させる。そしてウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)として、既存原発で使われる予定だ。この工場はフランスの技術と日本の技術の折衷だ。

再処理工場は、2006年に一時試験的に稼働したが、ガラス固化の部分がうまくいかなかった。
90年代末の稼働予定から22回延期した。建設費用も当初の7600億円から2兆2000億円程度に膨張している。

見学では、ガラス固化の技術上の問題を解決したという。炉の形状を工夫するなどの取り組みで問題を克服し、2013年7月にガラス固化試験は完了している。モックアップ(実物大模型施設)での試験も順調に終えており、改造さえできれば、稼働は可能という。その稼働を前提に、MOX燃料製造工場も建設される予定だ。

しかし、東日本大震災とその後の規制委員会の新規制基準の制定に合わせた、工事対応が六ヶ所工場では必要になる。見学時点での9月には来年の竣工、稼働を目標にしていたが、10月に日本原燃は、稼働の延期はあり得ると発表した。

また、ここにはガラス固化体の中間貯蔵施設があり、そのスペースは稼働した場合、20年分がある。再処理をすれば、使用済み核燃料を直接処分した場合と比べ、ガラス固化体は、容積が7分の1以下に縮小する。現在、最終処分地探しが行われているが、容積縮小は、処分地選定とその建設コストの低下に役立つだろう。また、この時間の余裕を考えれば、使用済み核燃料の最終処分の問題は、今すぐ解決しなければならない問題ではない。

国の責任で日本原燃は事業継続

ちょうど今、日本原燃の経営形態をどうするか、経済産業省の総合資源エネルギー調査会の「電力・ガス事業分科会原子力小委員会 原子力事業環境整備検討専門ワーキンググループ」で議論されている。電力システム改革が進んでいるが、電力会社の経営環境が劇的に変わる。今後は原子力事業者の倒産、撤退、事業売却もあり得る。日本原燃はこれまで電力会社に支えられてきたが、事業の運営の制度を定めることが急務だった。

作業部会は8月、国が所管する認可法人を新設し、その法人が日本原燃に事業を委託する案を示した。今後は国会などの審議を経なければならないが、この案通りならば、日本原燃は株式会社として存続する可能性が高まった。(参考・「電力・ガス事業分科会・資料」)しかし関与の程度が、どのようになるか、まだ決まっていない。

現在の制度では、再処理事業については、原子力事業者が使用済み燃料の再処理に必要となる費用を、資金管理法人(財団法人「原子力環境整備促進・資金管理センター」)に積み立てて、各事業者はそれを原資に日本原燃の経費を支払う。さらに再処理が商業ベースになれば、各事業者が日本原燃に処理量に応じた費用を支払うことになっている。

積立金は出資金として、会計上、各事業者の「資産」に計上されている。総額は11兆円だ。仮に自由競争の下で事業者が破綻するなら、その積立金を各事業者が取り戻し日本原燃の事業に使われない可能性がある。

今回の訪問で話をした日本原燃の幹部は、国の関与強化を歓迎した。同社は地元からの資材調達、雇用の確保など青森県、また六ヶ所村に配慮した経営を行ってきたという。「国の関与が強まれば、こうした地元配慮は難しくなるかもしれない。議論の行方を注視したい」という。実際に地元自治体からは現状からの事業形態の大幅な変更について、説明を求める声が
出ていた。

電力業界は、日本原燃を支える方針は変わらない。ただし、今回の見直しで、これまでの民間による「資産管理法人」から、国が主導する「認可法人」に事業者が変わることにより、国の再処理事業の責任が明確になる。

核燃料サイクルの今後をどうするか

そして、この核燃料サイクルは、今後重要な政治課題となるだろう。

プルトニウムを余分に持たないことを取り決めた日米原子力協定の2018年の改定が迫る。核燃料サイクルで分離されたプルトニウムは、高速増殖炉で使い減らすことが、日本の原子力の草創期から構想されてきた。ところが、その原型炉「もんじゅ」の存続が危うくなっている。それをみこした中国政府は、国連軍縮会議で10月、「日本政府が余剰プルトニウムを抱えている」と批判した。中国にとって脅威となる日米同盟に、原子力の分野からくさびを打ち込もうとしているようだ。

再処理をめぐる事業費は今後、どの程度まで膨らむか、現時点では分からない。そしてさまざまな意見がある。国の原子力政策を立案する原子力委員会は、2012年6月に複数の選択を考慮した上で、「原子力発電の稼働を2030年までに20—25%を維持した場合に全量再処理のメリットは大きくなる」という結論を示した。これまでの投資額と取りやめた場合の電力会社の損失計上などの会計処理のコストを考えたためだ。また核燃料サイクルを実施すれば、日本にほぼ産出しないウランが継続的に使えるメリットもあるという。

現地を見た筆者の個人的な感想だが、再処理施設はほぼ完成している。仮に再処理を断念して、その活用をあきらめるのは大変もったいない。もちろんその運営でコストはかかるが、まず稼働させメリットを享受した上で、先のことを考えるべきではないかと思う。

しかし動かすことにより、費用も膨らむ可能性がある。核燃料サイクルについては継続だけに固執するのではなく、将来的な再処理と直接処分の併用など、さまざまな選択肢を持ちながら進めるべきだ。

また大間原発を稼働させる、MOX燃料を使うという取り組みを通じて、プルトニウムの量を抑制させなければならない。

今回紹介した青森県下北半島の大間原発、中間貯蔵施設、日本原燃はいずれも、原子力発電の使用済み核燃料処理に関係している。その問題は最終解決したとは言えない。しかし、これらの施設は稼働すれば、問題の解決に必要な時間的余裕をもたらす。その「解決」とは最終処分地の決定、そして処分の開始である。

現時点で停まっているのは、原子力規制委員会の審査が遅れているためだ。現状を改善するような規制委、事業者の努力を期待したい。

多くの人の心配する、使用済み核燃料問題は解決不能という、いわゆる「トイレなきマンション」論は誤りだ。冷静に原子力の現実をみつめ、考えたい。