生産性向上→経済成長のグッドサイクルを --- G1オピニオン

(アゴラ編集部より)この記事はGLOBIS知見録「G1政策研究所」のアドバイザリーボード・メンバー5名によるリレー連載「G1オピニオン」からの転載です。今回の執筆者は、秋山咲恵・株式会社サキコーポレーション代表取締役社長です。

「100の行動」においては、日本が抱える諸課題を解決し、好循環に導くための行動を提案した。その軸となる考え方は、これまでの政権が行ってきた財政出動による景気刺激策ではなく、構造改革による経済成長を起爆剤とし、財政、社会保障の問題を解決する他ないということである(100の行動 9)。

構造改革には規制改革が不可欠であることは共通の認識であると思われるが、ここでは経済成長との関係を整理しておきたい。経済成長と規制改革の関係について、アジア成長研究所所長八田達夫氏が明快な説明を示されている。

「規制改革により経済成長がもたらされるのは、イノベーションの創出と構造改革によってであり、それらはつまり、生産性の低いところから高いところへの資源の移動についての社会的制約を取り除くからである」

しかし私たちが直面する現実においては、常識的に見れば合理性を欠くと言わざるを得ない規制や制度が数多くある。法律による規制だけではなく、省庁の通達や、地方自治体の条例で規定されているものもあり、それらは重層的に絡み合っていることが多い。現実に変化が起きたと感じられるような改革の成果が見えるまでには、相当の時間とエネルギーを要するのがこれまでの規制改革の姿であった。

規制改革会議は長い歴史の中で多くの有識者がバトンをつなぎながら粘り強く規制改革に臨んできた。そして安倍政権は、残る岩盤規制にドリルで穴を空けるために、規制改革の実験場としての国家戦略特区をスタートさせている。

例えば、IT技術革新によって新たに生まれたサービスにUber に代表されるライドシェアサービスがある。現実にはすでに多くの日本人が国内外で利用してその便利さを評価しているが、日本の法律上はグレーゾーンであるために同様のビジネスを日本で展開することは困難を伴う。

日本では原則として自家用車で有償サービス(自家用有償旅客運送)を行うことはできない。ただし、これまでの規制改革の成果として、一定の条件――例えば、交通空白地域で、NPOが主体となって、原則地域住民のみを対象とし、対面や書面による安全確認を記録した上で――等々を満たせば認められることとなっている。しかし、株式会社は明確に参入を制限されている上に、条件がこのように細かく厳しいと実質的には新規参入者を排除する結果となる。

かくして「制度上は一定の参入はできることになっているので、規制緩和の必要はない」という反論が規制改革反対の立場から主張されるのだ。このような事例は枚挙にいとまない。それが日本の現状である。

このようなことが起こる背景の1つは、ルール設定・運用権限を当事者(既得権者)との利益調整を行う組織(運営協議会・地域公共交通会議)に与えていることにある。この現状を打破するために、国家戦略特区では国・地方・規制改革推進事業者の3者からなる区域会議にルール設定権限を持たせるなどの工夫がなされるように改革派は主張している。本問題に関する安倍総理の積極発言を受けてである。

この問題の本質的な社会的インパクトは、従来型の行政による事前規制よりも、消費者の直接的な評価・選択の方がずっと効果的に質の悪いドライバーを排除できるという可能性への挑戦である。

2015年6月に発表された第3弾の成長戦略においては生産性の向上が大きく謳われている。規制改革の推進は、「生産性の低いところから高いところへの資源の移動についての社会的制約を取り除く」ものである。これによる生産性向上効果は社会に大きなインパクトをもたらすことになろう。

この地道で時間のかかる改革を後押しする方法の1つは、改革意識を持った多くの人材が政府、国会、自治体、関連組織などあらゆるステークホルダーに届くような声を上げていくことで改革当事者の活動を支えることである。100の行動がその原動力となることを切に望んでいる。

【今回のまとめ】
◆規制改革により、生産性の低いところから高いところへの資源の移動についての社会的制約を取り除け
◆行政による事前規制よりも消費者の直接的な評価・選択、という可能性への挑戦が行われている
◆改革意識を持つ多くの人が、政府、国会、自治体、関連組織などに届く声を上げることが大切


秋山咲恵 株式会社サキコーポレーション 代表取締役社長



「100の行動」「G1政策研究所」とは?
「100の行動」とは、日本のビジョンを「100の行動計画」というカタチで、国民的政策論議を喚起しながら描くプロジェクト。一般社団法人G1サミット 代表理事、グロービス経営大学院 学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナーである堀義人が、2011年7月に開始した。どんな会社でもやるべきことを10やれば再生できる、閉塞感あるこの国も100ぐらいやれば明るい未来が開けるという信念に基づく「静かな革命」である。堀義人による4年をかけた執筆は2015年7月に完了した。

「G1政策研究所」は2014年8月に一般社団法人G1サミットによって創設されたシンクタンク機能。日本を良くするための具体的なビジョンと方法論を「100の行動」として提示し、行動していくことを目的としている。アドバイザリーボードの構成は以下の通り。

【顧問】
竹中 平蔵 慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所 所長

【アドバイザリーボード】
秋山 咲恵 株式会社サキコーポレーション 代表取締役社長
翁 百合 株式会社日本総合研究所 副理事長
神保 謙 慶應義塾大学 総合政策学部准教授
御立 尚資 ボストン コンサルティング グループ 日本代表
柳川 範之 東京大学 大学院経済学研究科・経済学部教授
堀 義人 グロービス経営大学院 学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー


編集部より:この記事は、GLOBIS知見録「G1オピニオン」2015年11月6日の記事「兼業・副業の促進こそが働き方改革のカギ」を転載させてもらいました(アゴラ編集部でタイトルを改稿、画像も編集しました)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はG1オピニオンをご覧ください。