安倍首相の「南シナ海に自衛隊派遣検討」の背景

安倍晋三首相が19日、訪問先のマニラでオバマ米大統領と会談し、「南シナ海への自衛隊の派遣を検討する」と述べた。集団的自衛権への行使に向けて一歩踏み込んだ発言として話題を呼んでいる。

発言は「情勢が日本の安全保障に与える影響を注視しつつ(自衛隊派遣を)検討する」という慎重なものだが、オバマ大統領に対し直接語ることで、米国の信頼を確保して日米同盟を強固にし、中国の軍拡行動を牽制しようという決意がうかがえる。

民主党など野党はこの発言を「危険な言動」として追及するかも知れない。だが、私は現在の日本の安全保障環境がそこまで緊迫化してきたのだと思わざるをえない。

米国は東アジアでの予算面、軍備面で東アジアの軍事行動にさける規模には限りがある。米海軍は「航行の自由作戦」の名のもと中国の人工島12カイリ(約22キロメートル)以内に、3ヶ月に2度以上の頻度で米艦船を派遣する方針だが、この作戦にできるだけ自衛隊も参加してほしい、と思っている。

成立した日本の安全保障関連法が法律文面だけのものでなく、実際行動で示してほしいと、願っている。これに少しでも応えねば、米国の信頼を得られない。オバマ氏との会談で首相はそう感じたのだろう。

現在の海上自衛隊の規模では尖閣諸島の防備をはじめとする東シナ海への対応で手一杯と言われており、南シナ海にまで乗り出す余裕はない、と言われる。フィリピンやベトナムに巡視船を供与してパトロールを委ねているのもそのためだ。

実際、具体的な行動については、安倍首相はもとより菅義偉官房長官、岸田文雄外相も「(今のところ)米国の『航行の自由作戦』に参加する具体的な計画はない」と表明している。

だが、日米共同訓練の場を南シナ海にしたり、航空自衛隊による中国の軍事行動の監視活動、米軍艦への物資補給や洋上での石油供給活動などはやろうと思えば可能だろう。

できるところから始めつつ、徐々に自衛隊の装備と規模を高め、東アジアでの日米軍事行動を確かなものにして行く。これが安倍首相の考えなのではないか。

今の日本を巡る軍事情勢は日英同盟締結時の当時を想い起こさせる。ロシアの南下、東アジア支配の動きに脅威を抱いた日本と英国が手を組んだ。

それは米国に軍事を委ね、日本は専守防衛に徹する戦後の日米安保条約とは異なる。英国の力を存分に借りながらも、ロシアとの戦争の前面に立ったのは日本だった。義和団事件での厳しい軍律を守っての日本の活躍を英国が高く評価したことなどが背景にある。

英国は日本の軍事行動の実績を評価して、同盟条約を結んだのである。英国優位の同盟ではあったが、日米安保条約のような片務的なものではなく、双務的な内容であった。

今、米国が日本に求めているのは、その双務性だろう。たとえ後方活動が主体であっても、自衛隊の活動が今まで以上に危険を伴うものになるのは間違いない。だが、平和と安全、独立は話し合い(だけ)では保たれず、軍事力を持たねば保障されない。同盟関係も最後の信頼は協力して危険に対処するときに発揮される。

逆説めくが、その覚悟で軍事力を増強し、同盟関係を強固にしたときに敵国との戦闘は起こりにくくなり、辛うじて平和が保たれるといえる。

日本は今、その瀬戸際に立っている。安倍首相の発言はそのことを示しているのだろう。