選挙現場の人間に、学問は不要なのか!? --- 選挙ドットコム


(編集部より)選挙ドットコムの人気連載「小池みきの下から選挙入門」からの転載です。
日本選挙学会の理事長・岩渕美克(いわぶちよしかづ)先生へのインタビュー最終回。岩渕先生によれば、選挙についての研究の蓄積は日本ではまだまだ足りていないという。日本は総理大臣の入れ替わりも多いし、政治家の数が多すぎるなどと言われたりもしているのに、その研究が遅れているというのは少し不思議だ。政治の世界で、“学問”はどのような位置づけなのだろうか。
【小池】
「そもそも、先生が政治学の分野に進まれたのは何故だったんですか?」

【岩渕先生】
「今思えば、選挙特番とか、中高生の時から興味持って見ていたんですよね。同級生に政治家の子どもがいて、連れ立って事務所をのぞきに行ったりもしてました。僕は千葉県成田市の出身なので、成田闘争(成田空港の建設を巡る闘争。70年代に過激化し、多数の怪我人や死者が出た)みたいな政治的事件も印象に残ってます。ただなんだろう、コレコレこういう理由で政治学をやってます、という風に説明するのは難しいですねえ。もちろん『好きだから』は前提なんですが」

【小池】
「おお、何かもっと、私にはわからない高度な理由が……」

【岩渕先生】
「有名な数学者で広中平祐先生(日本で二人目のフィールズ賞受賞者)っているでしょう。彼はインタビューで『なんで数学をやっているんですか』と聞かれた時に、『数学のおかげで女房と娘と三人で生活できている。それでいいんじゃないか』というような返答をされていたんですよ。それはなんとなくわかるなと。もちろん、色々な気持ちはあると思うんですよ。でもそれをいちいち説明するのも野暮だし。僕もそうで、好きでやってる、っていうことだけでいいのかなと思ってます」

【小池】
「研究をしていて、難しいなあと思うのはどんなところですか? 色々あるとは思うんですけれど」

【岩渕先生】
「残念だけど、政治家の中には、『実際の政治と学問の政治は違うんだ』と仰る方がまだまだ多いです。学者は学者であって政治を実際に動かしているのは俺たちなんだ、という意識がある。まあ政治家だけじゃないけどね。僕は新聞学科にいるわけですけど、マスコミの方々にやっぱり『学問と現場は違うんだ』と言われることもあるし」

【マツダ参謀長】
「現場の人間と、学問をしている人間とでは見ているものが違う、という考え方はどうしても根強いですよね」

【岩渕先生】
「この間も、卒業して新聞記者になった教え子に『大学の勉強って別に仕事に役立つわけじゃないですよねー』なんて言われて、ちょっと待て、とつっこんじゃった(笑)。そりゃ、取材とかですぐさま『あ、これはあの講義で聞いたあれだ』なんて思うことは少ないかもしれないけど、それが果たして『役に立つ』ということなのかどうか。例えば変化する社会の中でジャーナリズムがどうあるべきかとか、自分がどう立つべきなのかを考える局面って必ずあるじゃない。学問って、そういう時に思索を支えてくれるものなんじゃないの、と。僕がそう言ったら『そうッスね~!』とか言ってたけど(笑)」

【マツダ参謀長】
「知識でもなんでも、とにかくダイレクトに役に立つかどうかばかりが気にされる風潮は僕もどうかと思いますね。本当に『すぐ役に立つ』ことだけが大事なら、本なんてハウツー本さえあればいいってことになってしまうし」

【小池】
「うーん、その辺りはライター業をやっている人間としてもひとごとじゃない……。でも、『勉強はなんの役に立つの』という質問に答えるのって難しいですよね」

【岩渕先生】
「そうですねえ。学問というのは、何かやったり、主張したりする時の理屈として必要という面もあるけど、本質的にはそうではなくて、ものごとの“初心”や、制度の根本に立ち戻るために必要なものだと思うんですよ。『なんでこういうものがあるんだろう』ってことを考え、議論するときにこそ、学問というものは道しるべや後ろ盾になるんです。選挙についての学問もそうで、我々の研究が『立候補者が選挙で勝ち抜くためのハウツー』に直結するわけじゃありません。ただ、国民の代表って何だ、首長とはどうあるべきなんだ、という基本理念を皆で考えていくときには、選挙についての色々な角度からの研究や、理論が必ず必要になるはずです」

【マツダ参謀長】
「『代表はどうあるべきか』っていうのこそ、まず政治家が議論しなきゃいけないところなんですけど、なかなかそういう話にならない」

【岩渕先生】
「まあ、そういう議論が足りないからこそ、自分が何の代表かわかってないまま政治家になっちゃう人もいるんだよね。だから保身のための言動ばかりするようになる。選挙区の、あるいは支援団体の人たちの顔しか見えなくなるとかさ。そういうのは困るよねえ、この国に住む人間として」

【マツダ参謀長】
「“現場”と“象牙の塔”の間にあるのは断絶じゃないということを、もっと色んな人に認識してもらいたいですよね。やはりここは、日本選挙学会に、選挙や政治について学ぶことの根本の意味を啓蒙していただくしか(笑)」

【岩渕先生】
「それにはまず、もっと会員を増やしていくところからですかねえ(笑)。折に触れてPRしてるつもりなんだけど、まだまだ力不足みたいで」

【小池】
「選挙ドットコムでじゃんじゃか宣伝しましょう!」

【マツダ参謀長】
「深く考えないで言ったんでしょうけど、その第一弾って小池さんの記事ですからね? ちゃんと書いてくださいよ」

【小池】
「うう、勉強します……」

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■日本選挙学会とは
1981年設立。選挙ならびにそれに関する研究及びその研究者相互の協力を促進し、あわせて外国の学会との連絡及び協力を図ることを目的とする。現在、会員は約500名。年次総会・研究会(毎年5月開催)と『選挙研究』(年2回発行)を活動の中心として、選挙についての研究を進めている。
日本選挙学会へのお問い合わせ、新規入会希望については下記URL参照。

https://www.jaesnet.org/inquiry.html#joinus


小池みき:ライター・漫画家
1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き



編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年11月30日の記事『現場の人間に、学問は不要なのか!?(小池みきの下から選挙入門 .22)』を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。