駒崎弘樹は誰のために「書く」のか

アゴラ編集部

言論プラットフォーム「アゴラ」と世界的筆記具ブランド「モンブラン」とのコラボレーションでお送りするブランドジャーナル「NO WRITING NO LIFE」。第4弾は、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんです。病児保育や待機児童問題などライフワークの子育て支援だけでなく、休眠口座の活用やひとり親世帯支援の充実などのキャンペーンで社会的注目を集めています。書籍、ブログ、テレビ出演など駒崎さんの定評ある発信力の原点、そして「書く」ことへの思いは何かに迫りました。(取材・構成はアゴラ編集部)
(※この企画はモンブランの提供でお送りするスポンサード連載です。)

小説家や脚本家を断念しても学べたこと


——最近も「ひとり親」のキャンペーンで注目を集めましたが、人に思いを伝えるのに心がけていることはありますか?
世の中で知られていない社会問題を取り扱うので、誰にでもわかりやすく、その問題に気付けるように書こうと心を砕いています。最初の著書『「社会を変える」を仕事にする』(2007年/英治出版)を書いた時、「NPOや社会起業のことを学生でも分かるように」「将来の職業として選んでもらえたら」という思いで書きました。出版は8年前ですが、去年、新卒で入社した女性から「高校生の時に図書館にあった駒崎さんの本を読んでNPOの道を志した」と言われた時にはとても感動しました。

——若い人にきっかけを与えたのは嬉しいですね。そもそも昔から「書く」ことはお好きだったのですか
中学の頃から詩を書くのが好きで、高校時代に投稿した新聞に掲載されたんです。でも男子校で恥ずかしくて誰にも言えなかったのに、よりによって担任の先生が新聞を見てしまって…しかも学校中に「頑張ったよ」とプリントして配ってしまうという “生き地獄”(笑)。友達にからかわれたけど、一度も褒めたことのない先生に褒められ、一抹の嬉しさもありました。「自分は、みんなに読んでもらえるものを書けるんだ」と自信にもつながる原体験でした。大学では脚本家志望。映画を撮りながら、文芸評論家の福田和也先生のゼミで小説の指導を受けました。

——本当は脚本家になりたかったんですか !?
友人たちと比べ、自分の才能のなさを思い知りました。フィンランド人と日本人のハーフの女子学生がゼミで一緒だったんですが、彼女が自分の体験をもとにアイデンティティーの揺らぎを綴った文章を読んで、「これは自分では絶対書けない。自分はあまりにも引き出しが足りない」と痛感しました。今は人に負けないだけの引き出しは増えてきたと思いますが、あの時、ゼミで練習していて良かったのは、人に伝えるための文章をどう書くか学べたことです。僕の仕事は社会課題の解決。その課題が「ここにあるよ」と伝えるのにも、わかりやすく書くことは重要です。今はブログやSNSがあって課題を知らしめやすくなりましたが、わかりやすく書かないと世の中には広がっていきません。

何かをすごく考える時は手を動かす


——文章のネタや事業のアイデアが思いついたらメモをしていますか
スマホでメモもしますが、手帳は今でも使っていますよ。自分で何かをすごく考える時は手で動かして考えるのがクセです。たぶん、小さい時から、考える時は手を動かすことを自分の中に“刻印”されているからでしょうか。白地にペンを使って、あれやこれやと書きながら考えていくやり方はそう拭いされるものではありません。一方、スマホだと入力する時の手の動きが、思考のスピードに追いつくのは難しいです。

書く訓練で「感想文」はよくない


——最近の若い人はブログですら長文を書くことが苦手と言われます。たくさんの若い人たちを見ていて感じることはありますか
僕らの世代はメールだったので、文章がある程度まとまっていましたが、“LINE世代”になってくると、一行でのやり取りになるので文化が違いますよね。もちろん良い悪い両方があるとは思います。ただ、ビジネスシーンに出るなら、それなりにまとまった文章を書く必要があります。ロジックの連なりとか、文章を書く訓練をしていないと、ある程度の年齢の方でも書けません。僕が思うに、学校で感想文を書かせる文化がよくない。

——感想文がよくないとは?興味深いですね
感想文ではなく、サマリー(要約)を書かせるべきです。たとえば夏目漱石の『坊つちゃん』を読んで、どういう話だったのか、4つの部品に分けて書いていってください、と問うのです。こういう問題は、文章のロジックや骨の部分を理解していないと難しい。ビジネスシーンでは、「いま大切なのは君がどう思ったか、ではなくて、この主張をすることだよね?」と問われます。つまり、言いたいことがあって、そのための論をどう立てるか。事実がどうで、どうあるべきか、ロジックが必要です。「君の感想は二の次だよ」って、うちの若い社員にも何百回言ったかな。

“課題先進国”日本の先例を世界に発信する


——駒崎さんは2020年代以降の「書く」ことの意義について、どう考えていますか
僕個人は、日本は課題先進国、人口減少社会の最前線にいるからこそ、書くべきことはいっぱいあると考えます。たとえば山間部の集落で路線バスを走らせられなくなっても、おそらく世界で最初に自動運転の車が渇望される。実は日本の地方こそ最初にイノベーションを起こせる部分があります。外国に答えを探そうとする研究者もいますが、実は私たちの方が先に行っているのです。日本がかつて欧米をキャッチアップしていた時代なら外国語を翻訳していれば専門家たりえたわけですが、まだマインドが追いついていません。

——ご自身の経験ではいかがでしょうか
僕の専門である少子高齢化の問題は、韓国からよく視察が来るので受け入れています。彼らがなぜやってくるかと言えば、日本が韓国の「10年後」だから。韓国は日本よりも少子化が深刻でありながら、保育政策はまだ日本の10年から15年ほど前のレベル。だからこそ、日本が30年かけて紆余曲折して積み上げてきた制度や知識を、10年でショートカットして習得しようとしています。中国も先ごろ、一人っ子政策を辞めましたが、子どもが社会に出るまでのタイムラグはありますから、やはり少子化に確実になります。つまり日本はアジア諸国から学ばれる立場です。だからこそ発信していくことが非常に重要になります。

取材の締めくくるにあたり、駒崎さんに、世界的プロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏がデザインした「モンブランM」の万年筆を使ってもらい、「あなたにとって書くこととは何か?」を綴ってもらいました。
(各写真をクリックすると「モンブランM」の公式ページをご覧になれます)

——「書くことで声なき声を響かせたい」と書かれましたが、その心は?
「ひとり親」の問題で言えば、当事者の方は日々の生活に追われていますから、自分の状況をわかりやすいように説明する文章を書いたり、対案を考えたりできませんよね。だから当事者ではない僕が翻訳してわかりやすくして、ストーリーを出していく。これからも当事者の「声なき声」を届けたいと思います。