言論弾圧は総務相が白昼堂々とテレビ局の幹部を呼び出すといったわかりやすい形で行なわれるわけではない。外資を排除してNTTドコモと民放連を組ませ、NOTTVをつくった張本人は、櫻井俊情報通信基盤局長(当時)である。彼はクアルコムを排除するために民放連グループにドコモを引き込み、オークションを拒否した。
この電波社会主義が自民党のメディア支配力の源泉になっているため、民主党政権は電波法を改正して周波数オークションを導入しようとしたが、櫻井氏が抵抗して、安倍政権がひっくり返してしまった。その功績もあってか今年、晴れて事務次官になった。
もともと総務省とドコモの取引の原因になったのは、2.5GHz帯の美人投票でドコモを落としたことだが、このとき「日の丸技術」のウィルコムを押し込んだのが菅義偉総務相(当時)だった。これが回り回って、VHF帯を民放連の既得権として守るドコモとの密約になったのだ。
テレビ局がもっとも恐れるのは、新規参入である。「テレビといえば1から12チャンネル」というイメージがあるから、あの下らない地上波の番組が視聴率を取れるので、BSもCSもケーブルも徹底的に排除し、オークションも先進国で最後まで拒否してきた。
特に「空気を読まない」外資が入ってくると、聖域だったVHF帯に今後、テレビ局が入ってくる前例になるので、櫻井氏や大橋秀行氏(現・電気通信事業部長)は電波社会主義を守り、総務省の天下りポストを確保した。
放送局を(独立行政委員会ではなく)官庁が直接監督しているのも、放送法で「政治的中立」を求めているのも、先進国では日本ぐらいだ。欧米では200~300局も衛星やケーブルでテレビが見られるので、すべてに政治的中立を求めることはできないし、その必要もない。多くのチャンネルの中から、視聴者が選べばいい。最強のガバナンスは競争なのだ。
逆にいうと、政府がテレビ局と(その系列の)新聞社を支配下に置くためには、電波社会主義が絶対条件である。これさえ守れば、テレビ局は呼びつけなくてもいうことを聞く。超優良会社ドコモの子会社が500億円も債務超過を出しても、ベタ記事にもならないのだから、その「暗黙の言論弾圧」の力は治安維持法なみだ。