シャープと東芝の縁組の可能性

岡本 裕明

魑魅魍魎、これがシャープを取り巻く現状でありましょうか?

同社へ液晶事業の売却に向けて圧力をかけるのが主力二行のみずほと三菱東京UFJです。その理由は同社への追加支援をした以上、何が何でも所定の経営改善の成果を見せなければ支援の判断が間違っていたことになり、銀行の債権は不良化しないとも限らず、そうなれば金融庁が手ぐすねを引いて待っているからでしょう。

ところが、同社の今期の決算は第2四半期まで見る限り計画通りの回復には程遠く、その不振の大きな理由を占めているのが液晶部門であります。かつて液晶の一本足打法で世界のシャープを自負したものの今や、その液晶が会社の屋台骨を揺るがしているということであります。

その為、主力二行は液晶事業をシャープ本体から切り離し、売却先を探すという流れとなりました。そこで上がってきた候補がジャパンディスプレイと台湾の鴻海精密工業であります。ジャパンディスプレイは業績がようやく安定してきたこともあり、その「結婚相手」としては申し分ないのですが、独禁法に引っかかる可能性が指摘されています。一方、鴻海はかつての因縁の相手であり、また、技術の海外流出の恐れがあることから踏み込めない状態でありました。

そこにジャパンディスプレイに出資する産業革新機構がシャープ本体に出資するという案をぶつけ、その条件として銀行に一定の債権放棄を迫りました。つまり、借金を棒引きせよ、というのであります。これは銀行が今春、正当な理由をもとに追加支援した論理を完全に遺棄するため飲めないでしょう。

よって再び、液晶は分社化、できればジャパンディスプレイとの相乗効果を期待する方向で検討が進んでいるようです。但し、銀行団はあこぎだな、と思ったのは売却交渉の相手に数が多い方がよいという理由だと思いますが、サムスン電子の名が加わっているようです。本気なのか、当て馬なのか分かりませんが、銀行のなりふり構わぬ姿勢振りを見ると相当焦っていることがうかがえます。

さて、ここで東芝が登場します。残ったシャープの会社は小粒ながら割と利益も出やすくシャープらしいユニークな商品群もあります。一方の東芝は先日、ノートパソコン事業を富士通とVAIOの三社統合する検討を始めると発表があったばかりで昨日はテレビ部門の撤退のニュースも流れていました。リストラの断行の一環で家電事業全般の整理を急いでいるようです。9月9日付のこのブログでは「一般的に考えれば家電部門は売却という発想がもっともバッサリとリストラをしたというイメージが強まる」と指摘していました。だいたいその展開通りとなっています。

ところが国内の家電メーカーはかつてと違い、白物家電を中心に撤退したところが多く、総合力ではパナソニック、三菱、日立あたりで、品目によってはシャープが善戦している状況でしょうか?そういう意味で液晶のなくなるシャープが家電に光明を見いだせるのであれば東芝とは面白い取り組みなのかもしれません。三菱、日立はいわゆる重電メーカーですから家電に的を絞ったシャープ/東芝連合が仮にできるのならパナソニックとのよいライバルになるのではないでしょうか?

シャープの行き詰まりは勿論、経営陣にも問題はあるのでしょうが、銀行の意向が強く過ぎてしまい、シャープのユニークさを完全に打ち消してしまったところにも原因があります。正に企業版「人格否定」でしょう。バブル清算時の悪い銀行の顔が出てしまっている気がします。ならば、今年の春、2000億円にも及ぶ銀行の支援は大きすぎてつぶせないという多くの日本企業が経験したかつての悪夢の再来だったのでしょうか?

本件、まだまだ流動的な気がします。但し、シャープは人工呼吸器状態、東芝もよちよち歩きですからあるべき体制を早めに固めてあげるのが最重要課題ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月11日付より