分類するには人は余りにも多様であり、複雑だ。そのような試みは誤解を生みだすだけで、実りは余り期待できない。それを承知の上で取り組んでみた。聖書から見た人間の分類だ。当方の狙いは「右翼」と「左翼」の出自を読者に紹介することにある。
聖書には興味部深い分類が記述されている。その分類は一つではない。複数ある。聖書は基本的には神と悪魔の善悪闘争の歴史を記述したものだ。神に仕える善人と悪魔に従う悪人という2つの分類だ。神はもちろんのこと、悪魔の存在も信じない現代人にとって、「善悪の2分類」はバットマンとジョーカーという単純な書割に過ぎない。幼少時代ならそれで良かったかもしれないが、少し成長すると善悪で人間を分類出来ないことを学ぶ。物事を斜めに見ることを学んだ人は人間を「ジキル博士とハイド氏」と気が付く。そして、その人間理解を成長の証とし、「お前もようやく人間が分かってきたね」という言葉を掛ける。
聖書には別の分類もある。「熱い」か、「冷たい」か、それとも「生ぬるい」かの3分類だ。「ヨハネの黙示録」第3章には「わたしはあなたのわざを知っている。あなたは冷たくもなく、熱くもない。むしろ、冷たいか熱いかであってほしい。このように、熱くもなく、冷たくもなく、なまぬるいので、あなたを口から吐き出そう」と記述されている。この分類法を「体温測定分類」と名付けたい。神の教えを信じ、それに専念できる信者を熱い人と表現し、批判的な人を冷たい人、生ぬるい人はそのどちらでもない中途半端な人を意味する。
実社会では、「生ぬるい人」が大多数を占めるのではないか。欧米キリスト教社会では不可知論者が増加してきた。不可知論者は神を信じないが、悪魔も信じない。なぜなら、神も悪もその存在を実証できないからだ。しかし、神と悪魔の存在を自信をもって否定できないので、分からないという状況に留めておく。黙示録の表現によれば、生ぬるい人々だ。イエスは熱いか、さもなければ冷たい人を歓迎していた。生ぬるい人は結局、何も見いだせないと警告を発しているわけだ。
旧約聖書には長子と次子に関する記述が多い。そして不思議なことに、次子は神の祝福を受け、長子は神の祝福圏外に立っている。まだ何もしていない胎児の時から、「神は次子を愛し、長子を憎んだ」(「ローマ人への手紙」第9章)と述べている。なぜ、神は次子を愛し、長子を憎むのか、「愛の神」は説明責任から逃れることができない。
聖書に通じた読者なら、アダムとエバの間の子供、カインとアベルの物語を想起し、カインがアベルを殺害したから、神はその後、長子を愛することが出来なくなったと解釈するかもしれない。いずれにしても、この分類法を「長子・次子分類」と呼ぼう。
最後に、このコラムのテーマ、右翼と左翼の出自だ。「ルカによる福音書」第23章をみると、イエスが十字架にかかる時、「同時に、ふたりの強盗がイエスと一緒に、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけられた」という。そして左の犯罪人はイエスに「あなたはキリストではないか。それなら、自分を救い、またわれわれをも救ってみよ」と、イエスに悪口を言い続けた。一方、右の罪人は「お前は同じ刑を受けていながら、神を恐れないのか。お互いは自分のやった事のむくいを受けているのだから、こうなったのは当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしたのではない」と述べ、イエスを証した。イエスは右の強盗をみて、「よく言っておくが、あなたはきょう、私と一緒にパラダイスにいるであろう」と語り掛けたという話だ。この有名な新約聖書の話から、右の盗人は後日、右翼の祖先と見なされ、左の盗人は左翼と呼ばわれるようになった。
左翼の人が「なんといった暴言だ」と批判されるかもしれない。一方、右翼の人は「イエスと共に天国に行けるのはいいが、私はイエスも神も信じていないよ」と弁明するかもしれない。左翼も右翼もその出自は強盗だ。左の強盗は将来、神の存在を否定する無神論世界観の共産主義世界を構築していった。
当方は聖書のどの分類が正しく、どの分類が間違っていると主張しているわけではない。当方はこの欄で「“愛されなかった人”の時代は来るか」(2015年11月27日)というテーマでコラムを書いた。その中で、神から愛されなかったカイン、神を否定する冷たい人、そして十字架上のイエスを罵倒した左の強盗を総称して「愛されなかった人」と呼んだ。そして彼らにも愛される時代がきっとくるべきだと考えたのだ。
翼の人よ、当方は批判しているのではない。カインとアベルが一つにならなければ、神の祝福は得られない。同じように、左翼も右翼も和解しない限り、世界の諸問題を解決できないのだ。ヤコブがいくら願っても、エソウがヤコブを受け入れない限り、両者は勝利者となれなかったのだ。左翼と右翼の思想を昇華する新しいパラダイムの到来が願われる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。