アメリカ遂に利上げ、その行方は?

岡本 裕明

9年半ぶりの利上げをジャネット イエレン議長が遂に決定しました。市場はこの利上げの決定は当然のクリスマスプレゼントだと考えていました。一方でアメリカ金融政策のベクトルの変化を市場が吸収し、あるべき方向性を見出すには数日かかるかもしれません。

私は発表の際、株価と共に為替をみていたのですが、対ユーロ、対円が乱高下したのが印象的でした。ユーロの場合、それまでの1.096から瞬く間に1.089レベルのユーロ安水準を付けたところで一気に反転し、1.100を目指す動き。ところがそこで反転し、ユーロ安に戻っています。今しばらくは落ち着かないと思います。英語でいうsell the rumor, buy the fact、日本語では「噂で買って事実で売れ」の様相を示すのか注目されます。

利上げの話題は耳にタコができるほど長く引きずっていました。その間、新興国のドル流出やドル独歩高、資源価格の下落、更にはユーロや円の下落など様々な要因を生み出してきました。日本では黒田総裁の金融緩和政策が円安を導いたというニュアンスが強いですが、少なくともこの1年ぐらいのタームで見ればむしろ、アメリカの利上げ要因の方が大きかったのではないでしょうか?

市場参加者は先物の反対売買を含め、目先は非常に荒れた動きになりますので一概にその方向性は申し上げられませんが、円がこれ以上安くなる論理はさほど強くないと思います。

一つに新興国が自国通貨防衛のため利上げなどに動き始めれば、日欧がそれに逆らって更に緩和する政策は流れに反することになるとみています。また、イギリスが年明け早々の利上げとなる可能性があり、ゲームチェンジャーの様相を見せるはずです。よって、一時的な動きはともかく、円もユーロもドルに対して弱含む積極的理由が見出しにくくここは一旦ゲームオーバーではないでしょうか?仕切り直しで改めてその方向性をじっくり考えなおすことが重要かと思います。

今後、アメリカの金融政策について次に考えることは二つあります。一つは利上げのペースの問題とFRBが買い込んだ国債などをどう処理していくか、という課題であります。

利上げのペースについては年4回、合計1%程度という見込みのようですが、これはアメリカ経済が2016年を通じて良好であること、インフレが一定の水準に達していることが前提であります。その中でインフレ率を低く抑えているのが原油価格で特に昨日、アメリカが原油の輸出を解禁したことで原油供給競争に輪をかけたとみられ、価格が大きく下落しています。ただ、これも繰り返しますが、ドルが弱含めばドル建て価格は上昇するわけでインフレ率改善には役立ちます。

つまりユダヤ的発想で腹を探れば、ドル安を誘導し資源価格を引き上げ、アメリカの輸入物価を引き上げインフレ率を改善させればアメリカの金融政策の安定性を維持できます。なおかつ、新興国に於いては資源価格上昇で経済危機のリスクを低減できるというウィンウィンのシナリオが描けるはずです。

唯一、利上げが直接的に懸念されるのは自動車販売と住宅、特にモーゲージであります。自動車販売は利上げ1%に対して販売台数3%下落とも言われ自動車販売台数は2015年がピークになる公算は高い気がします。

もう一点のFRBが持つ国債の処理ですが、これは非常に悩ましいかもしれません。これは中央銀行が持つ資産を流動化し、いつかは身軽にする必要が発生するのですが、その健全化プランについてまだだれも実証していないからであります。国債の重要なる引き受け手だった金融機関はバーゼル委員会での規制強化の可能性があるため積極的に動けない可能性があります。しかし、同じことはユーロも日本でも同様であり、住宅市場にハンマー的な打撃が絶対にないとは言い切れない状況です。

個人的にはようやく一区切りついた、という気がします。この利上げは2016年以降の経済、金融界の判断をやや容易にした気がします。但し今後数日の動きには要注意ですし、来週からはクリスマス休暇に入る人が多く、市場が閑散としますので乱高下しやすい環境になることも頭に入れておいた方がよさそうです。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月17日付より