大方の予想通り米連邦準備理事会(FRB)は日本時間の昨日午前4時、米連邦公開市場委員会(FOMC)で9年半ぶりに、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の新たな誘導目標を年0.25~0.50%に引き上げることを全会一致で決定しました。
7年程前、金融市場で100年に一度あるかないかの大変なturmoilが起こって後、FRBは前任のバーナンキ議長より三度に亘る大規模な量的緩和(…現在のFRB総資産額:約4.5兆ドル)と7年に亘るゼロ金利で、世界経済が可笑しくならぬよう危機的状況の封じ込めに取り組んできました。そして昨年10月、量的緩和第三弾(QE3)を終えて後この利上げ開始という次なる焦点を背景に、世界の金融経済は揺れ動いてきました。
中国に例をとると昨今、対米ドルで人民元は4年7カ月ぶり安値となる6.4837元(17日終値)となり、10日続落しており「データを取得できる1994年以降で最長とな」っています。景気鈍化懸念が強く漂うという中で、今後も緩和傾向が続くと見られる中国とは逆方向に米国の金利動向が鮮明になることも、人民元が対ドルで売られる要因になっていると思われます。
中国の実質GDP成長率は15年7~9月期に前年同期比6.9%増と09年1~3月期(6.2%)以来の低水準を記録しましたが、例えば先日内閣府が公表した報告書「世界経済の潮流 2015年 Ⅱ―中国経済の減速と世界経済―」を見ても、所謂「李克強指数…電力消費量、貨物(鉄道)輸送量、中長期貸出残高の3か月移動平均値の前年比を求めた上で各項目を均等ウェイト(各33%)で平均した試算値」を用いて、中国景気は「GDP成長率よりも急速に低下していることが見てとれる」といった指摘があります。
上記7~9月期に実際は、5%前後だったとみる専門家は少なくないようです。更に20年後半には、中国の実質GDPが4%台まで低下することが予想されています。添付画像1に示されている通り、一般的には段階的に下落して行くと見られていて、これから中国の成長率低下が大きくなって行く中で次第に、現在抱える様々な問題が顕在化してくる可能性があります。
「成長は全ての矛盾を覆い隠す」とはチャーチル英国元首相の名言ですが、中国という国は日本を遙かに凌ぐ格差や腐敗等々まさに矛盾だらけなのが実相です。その矛盾を何とか解消すべく都市化率の上昇に努めるも、未だ55%程度の状況に過ぎません(添付画像2参照)。そしてまた、大都市に溢れる所謂農民工と呼ばれる3億人とは中国の経済発展の恩恵を享受出来ていない人達で、都市戸籍の住民と比して全くと言って良い程社会保障が受けられていないのです。
あるいは昨年3月『中国とPM2.5~自国だけでは完結し得ない環境問題の怖さ~』と題したブログでも述べた通り、之は自国内で自国民が大変な迷惑を被っているだけでなく、諸外国に対しても多大なる迷惑を及ぼしている問題です。御承知のように、北京ではPM2.5濃度が先月「下旬から今月はじめにかけ、1立方メートルあたり600マイクログラムを超える日があった」とのことで、「世界保健機関(WHO)の基準を20倍以上も上回る」不都合な現実が深刻さを増しています。中国は自国のみならず他国の被害についても斟酌する姿勢が当然あるべきでしょうし、これからも社会コストを無視した経済発展を続けるようでは世界中から批判集中の的になるだけだと思います。
それからもう一つ、添付画像3を見て頂ければ一目瞭然ですが、中国は未だ全要素生産性が極めて低いという大問題も抱えています。また、今月6日の日経新聞記事「世界の工場、中国に陰り」にも年1割程度の上昇続く中国の人件費につき、表面的なそれに労働生産性も加味した「単位労働コスト」に関する次の記述がありました--日中のドル建ての単位労働コストは1995年時点では日本が中国の3倍以上だった。ところが、その差は次第に縮小し13年に中国が日本を逆転。14年は中国が日本を引き離している。第2次安倍政権の発足後、人民元に対して約4割の円安が進んだことも背景にある。
こうした現在の諸問題がまた中国経済を蝕んで行き、悪循環に陥れて同国の安定運営を著しく阻害するリスクも生じてきましょう。今後の政治経済情勢の行方如何では、中国及び北朝鮮より我が国へと大量の難民が押し寄せる可能性もあるかもしれません。従ってそういう意味でも我々は難民受け入れに適切に対処すべく、早急に関連法規をきちっと整備しておかねばなりません。
例えば、法務省入国管理局の報道発表資料「平成26年における難民認定者数等について」を見てみれば、我国の難民認定率は昨年0.2 %(…申請者数5000人に対して認定者数11人)といった具合に、その散々な実情が窺い知れます。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に拠ると、内戦勃発以後国外に逃れたシリア難民は昨日時点の累計で約439万人とされています。それ程遠くない将来中国の難民船が日本に押し寄せるようなことはないかと危惧する次第です。
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