価格が安いだけでは振り向かない今の消費

岡本 裕明

カナダでは12月26日はボクシングディと称される祝日です。通常、この日から北米ではクリスマス明けのビジネスが始まりますが、小売店は年末にかけて最大のセール期間に入ります。ただ、このセールは在庫処分市とも囁かれ、売り手側の都合という見方もあります。

そのボクシングディに向けて新聞には6割7割引きの目を引く広告がずらっと並びますが、このところの異変はそれまでの常連だった家電量販店が一切ないことでしょうか?特に今年の広告は見るも無残で家具店のバーゲンが目につく程度でした。5年ぐらい前までは家電量販店が26日午前0時とか遅くとも午前6時ぐらいには店を開け、Door Crusherと称する目玉商品をずらっと並べていました。ニュースでは前の晩から一番乗りで寝袋に包まる若者をインタビューするのが風物詩でテレビやゲーム、パソコンなどを嬉しそうに抱えていっていました。

私も以前iPadがアメリカで先行発売された際に友人とシアトルまで午前3時に家を出て数店を回り買いだめし、その友人は日本で2倍ぐらいの金額でネットで売却して小遣い稼ぎをしていたのを覚えています。何が楽しかったかといえばお祭り的なワクワク感でしょうか?

ところが最近、消費は変わったと思います。まず、バンクーバーで2社しかない家電量販チェーン店の一方が潰れました。もはや1社しかないのですからdoor crusherも6割引きもあったものではありません。

次にバンクーバー空港のそばにアウトレットモールが出来ました。夏ごろオープンしたのですが、徐々に店が充実してきており、来年から第二期拡張工事に入ります。そのモールには12月23日に行ったのですが、既にボクシングウィークセールが始まっていました。行ったのが夜7時頃だったこともあり、閑散としておりゆっくり買い物が出来ました。これで国境を越えてアメリカまで為替を気にし、帰りにカナダ国境で入国審査官の小うるさい質問も気にしなくてよいかと思うとホッとします。

3番目に、これも世界共通ですが、ネットショップで欲しいものがいつでもすぐに手に入る時代になったことでしょうか?家でコンピューターの画面を通じてのショッピングがかなり充実しているのは明らかな時代の変化です。

日本でも北米でもバーゲンに人が集まるのはなぜだったのでしょうか?それは欲しいけれど手が出ない、それが破格の値段でゲットできるからではなかったでしょうか?あるいは掘り出し物があるかもしれないというドキドキ感かもしれません。

ところが最近の消費者動向は若い人を中心に変わってきています。まず、欲しいものがピンポイントで決まっていることでしょうか?○○ブランドの△△という具合です。それ以外には見向きもしないのはネットでかなり下調べをしてその商品を研究し、他のものと比較検討済だからでしょう。

次に今の50代から上の方のような大量消費はしません。ものはなるべく少なく、というトレンドが出来つつあります。趣味のもの必要最小限のもの以外は所有すらしない人もいます。例えば音楽を聞くにも昔はデンと構えるオーディオセットに大きければ大きいほど良いスピーカーが所狭しと並べられていました。(私もその口です。)ところがだんだんAV機器は小さくなり、ついにはスマホでハイレゾを聞く時代で、家電量販店には高級ヘッドセットが所狭しと並んでいます。

ビックカメラで福袋の予約が殺到して販売中止にしたそうです。想像ですが、福袋にワクワク感を感じるのも中高年以上の方だと思います。私はかつて一度だけ福袋なるものを買ったことがありますが、馬鹿馬鹿しくてそれ以降二度と購入する気にはなりませんでした。多分、私もピンポイント派なのかもしれません。

蛇足ですが、今年のクリスマスは外でディナーするより親しい友達の家に集まってワイワイする傾向がより強まったようです。レストランのお仕着せよりも家でゆっくり話しながら食べたり飲んだりする方がどれだけ楽しいことか。先週、親しかった人の送別会をお世話するのにホテルのキッチン付きリビングルームを借りて十数名集まってやりました。持ち込んだ食べ物や飲み物は大したことなくても雰囲気とプライベート感覚が素晴らしく良く、大変好評でした。

消費者はドンドン賢くなります。売り手はドンドン難しくなる、これが世の中の流れのような気がします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月27日付より