バチカン放送独語電子版が25日、アジアのカトリック系通信社UCANEWSの報道として伝えたところによると、ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁は中国当局が選出した四川省成都の司教区の新司教を承認したという。
昨年5月8日に選出されたジョセフ・Tang Yuange氏は1963年生まれで、1991年に聖職者となり、地方教会の委員会副事務局長や地元のカトリック教会愛国協会理事長などを歴任している。新司教の任命式は来年に予定されている。成都前司教が1998年に死去して以来、成都教区(推定12万人信者)の司教ポストは空席となってきた。
成都の司教任命は2012年以来で、フランシスコ法王と習近平中国国家主席の関係を占うテスト・ケースと受け取られてきた。バチカン使節団は10月、北京を訪問し、関係者と会談を重ねてきた。5月の新司教選出の件については、中国側は事前にバチカン側に報告済み。バチカン側は選出プロセスを慎重に監視してきた経緯がある。
バチカンが新司教を承認したことを受け、中国との関係が前進するかは不明だ。なぜならば、中国当局は昨年5月、「宗教は国家の安全への脅威である」という警告を発し、「宗教の浸入は、社会主義の信念へ脅威をもたらす」と主張しているからだ。例えば、同年4月、温州当局はキリスト教に対する取締りを強化し、丘の頂上カトリック史跡から宗教的な像などを撤去している。
バチカンはべネディクト16世時代の2007年、中国を潜在的な最大の宣教地と判断し、北京に対して対話を呼びかける一方、同16世は同年6月30日、中国のカトリック信者向けに「中国人への書簡」を公表し、そこで(1)中国共産党独裁政権下で弾圧を受けている地下教会の聖職者、信者への熱いメッセージ、(2)北京政権に対しては「信仰の自由」の保証、特に、バチカンの聖職者任命権の尊重を要求している。
一方、中国外務省は過去、両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶―の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した「愛国協会」が行い、国家がそれを承認するやり方だ。
中国聖職者組織「愛国協会」は06年4月と11月、バチカンの認可なくして司教を叙階してバチカンの激しい批判を受けた。2011年と12年にもローマ法王の承認なしで3人の司教を任命して、バチカンと北京の間の対話が停止したことがある。
ところで、南米出身のフランシスコ法王は初のイエズス会出身のローマ法王だ。一方、中国宣教の基礎を築いたのはイタリアのイエズス会修道士マテオ・リッチ師(1552~1610年)だった。中国はイエズス会と深い関係がある。
習近平氏が2013年3月14日、国家主席に任命された時、その一日前にローマ法王に就任したフランシスコ法王は祝電を送り、同主席もバチカンとの関係改善に意欲を伝える書簡を送ったといわれている。
バチカン側が新司教の任命を承認したことから、両国間の関係が改善に動き出す可能性は完全には排除できないが、本格的な関係正常化(外交関係樹立)にはまだ時間がかかりそうだ。バチカン放送は「中国の臆病なバチカン接触」というタイトルで記事を発信していた。正鵠を射た見出しだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年12月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。