テロが起きても動揺するなと説く不思議な初鹿議員 --- 岩田 温

人間の価値観は様々だから、色々な考え方があっていいだろう。だが、我が国の政治を担う国会議員が、こういう発言をするのはいかがなものなのだろうか?

維新の党の初鹿明博国対委員長代理の発言だ。産経新聞(1月5日)によれば、初鹿氏は集団的自衛権の行使容認を認めた安倍政権を批判しながら、次のように語ったという。

「(集団的自衛権の行使によって)米国の戦争や他国の戦争に巻き込まれていく。テロが日本でも起こるかもしれない」

「復讐しない、仕返しをしないとの決意を、われわれが持てるかどうかが非常に重要だ」

「テロが起きても動揺したり、怒ったり、あわてたりせず、戦争はしないとはっきり誓い合うことが必要だ」

何点もおかしな点があるのだが、発言順に検討してみよう。

まず第一の発言は、米国の戦争に巻き込まれて、テロが起るという論理だ。
この論理がおかしいのは、既にテロリストたちは日本を破壊すべき堕落した文明社会に生きる人々と位置づけているという点を無視しているからだ。彼らは既に日本を敵視している。だから、日本人のジャーナリストがISに拘束され、殺害されているのだ。我々が彼らに手を出さなければ、彼らも我々に手を出しはしない、というのは、俗耳に入りやすいが、必ずしも真実とはいえない。我々の存在そのものが、認められないという価値観を抱く人々もこの世の中には存在するからだ。

拙著『平和の敵』の中で詳述したから、興味のある方は読んでいただきたいが、実際に、テロリストは日本のタンカーを攻撃している。日本が手を出さないから安全というわけではないのだ。このとき、日本のタンカーを守ったのは、アメリカ軍だった。そのとき、アメリカ軍には死傷者が出た。彼らの犠牲の上に、日本の繁栄が成立しているのであり、テロと日本は関係がないというのは、現実を見つめていない暴論だ。

また、初鹿氏の次の発言もおかしい。

「復讐しない、仕返しをしないとの決意を、われわれが持てるかどうかが非常に重要だ」

「テロを起させない」との決意が重要なのではなく、「復讐しない」ことが大切だというのだ。これでは、テロが起ること自体は仕方がないと諦めているようにしか感じられない。何故、「テロを起させない」ように努力するとは言わないのだろうか。

そして、最もおかしいのが最後の発言だ。

「テロが起きても動揺したり、怒ったり、あわてたりせず、戦争はしないとはっきり誓い合うことが必要だ」

テロが起きて、動揺しない人など、この世に存在するのだろうか。

少し考えてみればわかるが、そんな人は存在しない。
貴方が通勤途中のバスの車窓から外を眺めていたとしよう。突如、あるビルが爆破された。
普通の人なら、何が起こったのかと驚愕するだろう。

だが、初鹿氏は「動揺したり、怒ったり、あわてたりせず」にいろという。そして、テロが起きた際に「戦争はしないとはっきり誓い合うことが必要」だという。

要するに、ビルが爆破されたのをみたバスの中の人々は、動揺したり、怒ったり、あわててはならないというのだ。そんなことをするかわりに、互いに「戦争はしない!」と誓い合えと初鹿氏は説くわけだ。

申し訳ないが、こんなことの出来る人間は、殆ど存在しないだろう。テロが起きれば、驚愕し、怒り、悲しむのが人間というものではないだろうか。

勿論、怒りにまかせて全ての行動を決定するような単純な政治であってはならないのは当然だ。だが、テロを起すなと主張するのではなく、テロが起きても「復讐するな」驚きもせずに「戦争はしない」と誓えというのは、どうかんがえてみても、無茶な主張であると言わざるを得ない。
 
民主党と維新の党が合併した際には、党名が変更されることになるという報道があった。一体、どんな政党名を掲げるのか知らないが、ここまで浮世離れした政治家たちが集う政党ならば、「社会党」と名乗ればよいと思う。

55年体制下で、「非武装中立」などという、絶対に実現不可能な安全保障政策を掲げ、我が国の国防論議を不毛な論議にし続けた元凶が社会党だった。

これも過去の憲法学者、政治家等々の発言、論文を『平和の敵』の中で、色々と検討したから、是非とも目を通して頂きたいが、結局のところ、「集団的自衛権行使容認は立憲主義に違反する」などという主張は、かつての「自衛隊の存在は憲法違反だ」「PKO法案の成立で立憲主義が破壊される」という社会党の主張と大差がない主張なのだ。

20年経ってから、「集団的自衛権の行使容認」に関する議論を見直してみたとき、何とも過激で愚かしい議論が横行していたことに気づかされるだろう。

テロが起きても、「動揺したり、怒ったり、あわてたりせず」にいろ!と国民に冷静さを強調する人間が、集団的自衛権の一部が容認された程度で「動揺したり、怒ったり、あわてたりせず」にいて欲しいと思うが、如何だろうか。

日本のリベラルは、もう少し現実的でなければ、国民の支持は得られないだろう。

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編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2016年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。