金正恩打倒のクーデターはないのか --- 中村 仁

歯がゆすぎる神経戦に失望


北朝鮮の核実験に対し、関係国は口先では激しく非難しています。今にも厳しい制裁がとられそうだと思っているとそうではないのですね。神経戦ばかりが続きそうですね。しびれをきらして、金独裁体制の打倒が不可避という主張があちこちから上がってくるかもしれません。

後見人とでもいえる中国が包囲網に本気ではなさそうですね。朝鮮半島に金独裁政権という「狂犬」を放っておいたほうが、外交上、有利と思っているのでしょうか。この「狂犬」はさすがに中国にはかみつかないでしょう。そこで米大統領選の共和党指名争いでトップを走っているトランプ氏が正論をはいています。「北朝鮮をコントロ-ルできる中国が問題を解決すべきだ」と。

中国に「狂犬」は役立つか


中国は経済支援の縮小、打ち切りなどを口先では唱えているものの、これも形ばかりで、中国東北3県と北朝鮮の貿易は黙認されてきたようですね。こんな問題だらけの国を抱え込むつもりはないし、米韓日には獰猛なうなり声を上げ、かみつこうとする「狂犬」は、中国には有用という位置づけでしょう。核ミサイルも、よもや中国には撃ってこないとの想定でしょう。

米国ではオバマ大統領の評判がよくありません。大統領選の前哨戦を迎え、共和党は言いたい放題ですね。文句をいうなら金正雲に対して言うべきだ思うのです。「オバマ政権のイラン、シリアなど、中東への対応は弱く、不適切」。事実だとしても、複雑でこんがらがった糸のような地域に介入しても、泥沼に踏み込むだけと、オバマ大統領は考えているのでしょう。

核ミサイルが米本土向けに発射されても、米国なら迎撃できる。さらに米国を攻撃したら北朝鮮は国家崩壊の報復を受けることは想定している。結局、米国は「北朝鮮の非核化を」と叫ぶものの、国連安保理を主導し、制裁の包囲網を強化する構えは見せても、本気がどうか疑わしい。

むなしく聞こえる米国責任論


新聞も「世界各地で目だってきた不安定の芽が、米外交の影響力の低下と連動している」といいつつ、「オバマ外交が危機を招く」(日経、8日付け)と批判しています。まるで多くが米国のせいであるような指摘が日本では目立ちます。外交力の低下を指摘する一方で、「オバマ政権が北朝鮮問題に積極的に取り組んできたとはいえない」(読売、10日付け)。米国責任論は聞き苦しく、聞くほどに、では日本はどうするのかと、いらだちが募ってきます。

隣国の韓国は「強硬路線再び、無人偵察機や対戦車ミサイルを配備」、「朴大統領が覚悟の宣伝放送再開」です。宣伝放送の中身は何かといえば、「金正恩は娘のためにドイツ産の粉ミルクを輸入している」など。拍子抜けですね。一触即発めいた小競り合いは今後、予想されても、両国は全面対決しても得るものないことは知っているでしょう。また、同胞の民族に核ミサイルを落とすことはまずないでしょうね。

将来、ミサイルを撃ってくるとすれば、先ず日本向けでしょう。安倍首相は「北朝鮮に対する断固たる対応」を指示しました。「断じて容認できない」ともいいます。では何をどうするのか。結局、メディアが連日、大展開して報道するわりには、実態が明らかになってくると、要するに四方八方が塞がっているような気がします。

独裁者の末路の研究を


有識者のコメントを読めば、1人くらいは「北朝鮮に金正恩排除のクーデターは起こりうるのか」、「かつて示唆された暗殺計画の存在はその後、どうなっているのか」、「北朝鮮の特殊事情があるのか」などに言及すると思っていましたら、見当たりませんね。このままでは、国際的な解決がさら難しくなるのでしょう。国民生活を犠牲にした独裁者の暴挙、暴走は内戦、内乱、クーデターなどで区切りがついた前例が多くあります。さすがに国連の場、外交交渉の場であからさまに、こうした前例に触れることはできますまい。

ではどうするか。側近の命を命とも思わず、おただしい人間を処刑してきた異常人格者ともいえるトップをこの先も、放置しておいたら国内社会、国際社会に対して何をしでかすか分りません。独裁者が迎えた末路について、軍事評論家あたりが分析、解説をしてくれることを期待しています。体制が崩壊した場合の万一に備え、国家の統治方法、難民対策、経済支援など、緊急対応と中長期の対応、さらに北に残された核の扱いなどをシミュレーションしておくべきだと思います。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年1月10日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた中村氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。