バズフィード日本版会見は“意識高い系”祭でした

▲華やかに行われたローンチ会見(左からベン・スミス編集長、古田大輔・日本版編集長、高田徹・バズフィードジャパン社長)

卒のなさが目立ったローンチ会見


どうも新田です。きのうは35万PVだとか、ここ数日のアゴラのバズりぶりに、「SMAPさんにKANSHAして」ってお叱りを受けそうです。そんな本日、本題のバズフィード日本版の記者会見に行ってまいりました。直後にテレビ局で収録があったので、それを終えてから、このブログを書く際にメモや録音を確認しようとしたら、たった数時間で速報ストレートニュース以外にも、全文書き起こしがネット上にアプされてますんで、先入観なしに会見の中身を知りたい方はお先に下記をどうぞ。いやはや、便利な時代。

時事通信;バズフィード日本語版開始=新興ニュースサイト

 

BLOGOS;;「楽しい」「信頼」「シェア」がキーワード~『BuzzFeed Japan』が公開にあわせ記者発表会

ログミー;【全文】BuzzFeed Japan 創刊編集長 古田氏が会見「ポジティブな影響を与えていきたい」

会見に出てみた感想をササッと綴ると、古田編集長がジョブズなりきりで登壇しておりました。

「BuzzFeed Japanを選んだ12の理由」とぶち上げて、朝日新聞を辞めた内幕を語るのかと思いきや、蓋を開けてみれば、「動物の画像」だとか、「ソーシャルで拡散させる」とか、数年前に某ハフィントンポストのローンチ時にも聞いたような記憶がある、おサレ記者会見。メディアイノベーション好きの方々はどうぞ発言の深堀り分析をしてくださいね、と横目に見つつ、セレモニー色の非常に強く、卒なくまとめようとしている雰囲気が漂っていると思いきや、メディアの会見にしては珍しく、おサレ戦略PR会社某ブルー・カレントが仕切っていると知って納得でした。質疑応答の折、再三手をあげたんですが、こちらに目もくれなかった一方で、日経記者が連続して2人指名されたあたり、ヤフーサイドとしては、顔なじみの記者の想定内質問で乗り切ろうとしていたのかと思ったり。

見所はバズフィードVS弁護士ドットコム編集長対決


こういう平和で、企業側の言いっ放しで終わるような記者会見の場合、やはりKYな質問をぶっこんでくる記者がいると面白くなるのですが、最後に来たのは弁護士ドットコムの亀松編集長。よっ、待ってました。はい、ここだけ書き起こします。

亀松「古田さんにお聞きしたいのですが、競合相手としてどこを考えているのか?古田さんのバズフィードを移りたい理由を見ても、バズフィードは日本で考えると、ハフィントンポストに立ち位置が似ているなと考えています。実際のバズフィードの編集部にもハフィントンポストの元副編集長が移籍しており、バズの人もハフィントンポストからヘッドハンティングされています。当然、古田さんもハフィントンポストを競合として考えていると思います。ハフィントンポストは月間で約1億ページビューありますが、どのように戦っていくつもりかの戦略。いつ頃、ハフィントンポストに追いつけそうか?それをお聞きしたいと思います」

キタこれ、さすが。淡々とした口調で本質をザクッと切り込みに来る亀松節。取材に来ていた某メディアの記者のスマホ画面がたまたま目に入ると、LINEで同僚らしき相手と「亀松さんも嫌な質問をするな~(笑)」とやりとりしているぞ。同じ取材者として褒め言葉ですね。最後の最後で、やっとおもしろくなってまいりました。さあ古田さん、どうする?

古田「質問ありがとうございます。まず最初は競合。僕たちが競合と思っているのはメディアには限りません。ゲームであったり、コミュニケーションツールであったり、あらゆる人がスマートフォン上で使うもの、サービスすべてが競合と思っています。なぜかというと、私たちは自分たちのコンテンツを多くの方々に楽しんでもらいたいと思っていますが、そのときに楽しんでもらう人たちは、じゃ何を使って楽しんでいるかはゲームだったり、コミュニケーションツールだったりするわけで、もし僕が「どこどこのメディア」というのを考えていて戦っていては、最終的にメディア全体がゲームやコミュニケーションツールに負けちゃったら、僕らコンテンツを楽しんでもらう時間は総合として減ってしまうわけで、競合メディアの間でどう読まれているかという小さな部分だけじゃなくて、スマホ上でどう楽しんでもらっているか、読んでもらっているか、見てもらっているかを考えなければならないと思います。

で、ハフィントンポストさんを例に挙げて追いつく目標とかの話がありましたが、我々は成功の指標というのは、バナー広告がないので「1クリックいくら」というビジネスをしているわけではないので、私たちが目指さなければいけないのは、「どれだけ人々に影響を与えられるメディアになるか」というところに(目標を)置いています。なので、「ページビューがどれだけ増えたか」ではなくて、どれだけ日本の中でもより楽しんでもらえる、何かあった時にはすぐバズフィードを見に来てもらえる、そういったメディアになれるかどうかを指標にしているので、ページビューにこだわっているということは全くありません」

ほほう。これは、ブルー・カレントさんの想定問答で仕込んでいたのか古田さんの持ち前の機転なのかは分かりませんが、広報的にはうまく答えましたね。まあ、マーケティングの教科書でおなじみの、アメリカの鉄道会社が20世紀に入って衰退した理由について、かのレビットが「当時自動車や航空機などの進展によって衰退へと追いやられた鉄道会社は、人や物を目的地に運ぶことと捉えず、車両を動かすことを自らの使命と定義したことが衰退の要因である」と看破した故事を彷彿とさせるといいますか。

このあたり、グロービスとかに通って、NewsPicksでアゴラの記事をdisりまくっている「意識高い系」が喜びそうな大人コメントです。しかし核心には全く触れず、数字を言わない肩透かし戦術には、私も、私の隣にいた某ハフィントンポスト日本版前編集長のMさんも「数字言わなかったねー」と苦笑いものでしたが、これだけ頭の回転が速い人材を手放したことは朝日的には勿体なかったでしょうね。

バズフィード日本版では、日本人が書いた記事をグローバルに発信することも強化するとのこと。まあ、古田さんの古巣がやらかした慰安婦報道で低下した日本のイメージを払拭するような訂正報道をやっていただればという宝くじ並みの淡い期待を妄想しつつ、ウチのような零細メディアが逆立ちしてもできない「テクノロジー×ジャーナリズム」の日本発世界的スクープ調査報道をいつかやっていただけると期待しております。がんばってください。ではでは。


新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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