甘利大臣は「シロ」か「クロ」か --- 選挙ドットコム


▲22日の閣議後記者会見で「調査中」を強調する甘利氏
(内閣府動画より、アゴラ編集部)


久々に“超ド級”の政治資金スキャンダルが飛び込んできた。21日発売の週刊文春に、「甘利明大臣や秘書に賄賂1200万円を渡した」とする建設会社社員の証言が掲載されているのだ。甘利氏といえば安倍政権の中枢の1人で、同氏が担当するTPP問題は今国会の最重要案件でもある。早くも自民党内からは「辞任が不可避」との声が出ている。

永田町で広がった「甘利がヤバい」


20日の参院本会議場。大臣席に座る甘利経済財政・再生相は3時間ほどの審議中、終始目を閉じていた。本人も、マスコミも、翌日発売の週刊誌に甘利氏のスキャンダルが掲載されることを知っている。カメラマンに表情を撮られたくなかったのか、それとも今後の対応に頭を悩ませていたのか。同僚議員が心配そうに見守る中、じっと目を閉じ続けた。

永田町では週刊誌に政治関連の大型記事が掲載されると、前日までにゲラ(校正刷り)が出回るのが慣例。いったん出回ると議員や秘書、記者、官僚たちの手によって瞬く間に広まり、前日の夕方ごろにはほぼすべての永田町住民が情報を把握しているのである。

今回も「甘利大臣がヤバい」という噂は一気に広まった。大きな反響を予想してか、週刊文春も20日の16時に「衝撃告発『私は甘利大臣に賄賂を渡した!』」との速報を公表。実名で証言した建設会社社員も「内容はすべて真実」とするコメントを発表した。

「衝撃スクープ」の中身


記事の要点はこうだ。千葉ニュータウンの開発に伴う県道の建設に関し、千葉県から事業を委託された独立行政法人都市再生機構(UR)と、道路に隣接する千葉県白井市の建設会社Sとの間でトラブルが発生。S社はURに補償を求めたが、交渉が難航したため、甘利事務所に相談を持ち掛けた。

甘利事務所の介入により交渉が進み、URはS社に約2億2000万円の保証金を支払った。そのお礼にS社は甘利事務所に500万円の現金を持参。数日後、甘利大臣にも議員会館で現金50万円を手渡したという。だが、その後にS社とURは再び道路建設を巡ってトラブルとなり、S社は甘利事務所に仲介を依頼。S社は甘利氏に再び50万円の現金を手渡したほか、毎週のように政策秘書や公設第一秘書に食事やキャバクラをご馳走した。

S社がメモとして残しているだけでも2015年に“経費”として手渡したのは210万円で、飲食費が160万円。2014年は“経費”が455万円、飲食費が211万円だという。甘利事務所は“経費”の大半を収支報告書に記載していない。

これらを実名で証言したのは千葉県白井市の建設会社で総務を担当する一色武氏。事前に同氏がリークしたのだろう、記事では記者の目の前で行われた現金授受の生々しいやり取りや現場写真も紹介している。ここまで具体的な政治資金スキャンダルも珍しい。

焦点は「賄賂」と「虚偽記載」


問題点は大きく2つ。1つ目はS社の依頼を受けて国交省の所管するURに対して口利き(お願い)し、お礼として多額の現金を受け取ったのかどうか。つまり、賄賂を受け取ったのかどうかだ。
事実であれば、国会議員や秘書が支持者らの依頼を受けて官庁や公務員(UR職員を含む)に働きかけ、その見返りとして金品を受け取ることを禁じる「あっせん利得処罰法」違反に問われる可能性がある。

政治家の行政上の職務権限を問わないため、甘利氏が国土交通行政を所管するかどうかは関係ない。違反した場合は最高3年の懲役刑。裁判で係争中だが、岐阜県美濃加茂市の若手市長が逮捕された容疑の1つがこのあっせん利得処罰法違反だ。

焦点はS社から受け取った現金が誰のポケットに入ったか。事務所(党支部)への献金として扱っていれば言い逃れもできるが、甘利氏や秘書が自分の財布に入れ、個人的に使っていれば完全な“クロ”。記事を見る限り、秘書が個人的に使っていた可能性はある。

もう1つの問題点は受け取った現金をきちんと政治資金収支報告書に記載したかどうか。国会議員は企業から政治資金パーティーのパーティー券購入を通じて、もしくは党支部を介した献金として資金を受け取ることができるが、20万円超のパーティー券、5万円以上の献金はすべて収支報告書に記載しなければならない。

記事によると、最初に事務所に持参した500万円のうち、200万円分は政党支部への献金として処理されているが、残り300万円はどこにも記載がない。虚偽記載もしくは記載漏れなら「5年以下の禁錮、100万円以下の罰金」が科される可能性がある。小渕優子元経済産業相など、最近の閣僚の辞任で最も多いのがこの政治資金規正法違反である。

甘利事務所は記事中で、甘利氏に渡された50万円やその他の現金について「パーティー券で処理している」などと答えているが、S社側は否定している。永田町では「よく使われる手口」ではあるが、パーティー券収入と偽って企業献金を受け取る虚偽記載である可能性がある。

第二次安倍政権発足以来、最悪の事態


自分から金を渡しておきながら、都合が悪くなった途端に掌を返したように告発したS社は批判されるべきだろう。だが、現職閣僚でありながら安易に金に食いついた甘利事務所も認識が甘すぎる。仮に法的問題を免れたとしても、道義的責任は免れようがない。

ある自民党議員は「筋悪の業者が大臣側に近づき、はめたんだとは思うが、証拠を押さえられすぎていてかなり苦しい」と話す。

第二次安倍政権発足以来、最悪の政治資金スキャンダルとなりそうで、早くも霞が関では閣僚の交代を予想する向きが主流だ。参院選直前の通常国会が開幕したばかり。しかも円高、株安の進行という最悪のタイミングに訪れたこの試練を、安倍政権はどう乗り越えるか。菅義偉官房長官の判断に注目が集まる。


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山本洋一:元日本経済新聞記者
1978年名古屋市出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。政治部、経済部の記者として首相官邸や自民党、外務省、日銀、金融機関などを取材した。2012年に退職し、衆議院議員公設秘書を経て会社役員。地方議会ニュース解説委員なども務める。
ブログ:http://ameblo.jp/yzyoichi/


編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。