欧州中央銀行(ECB)は21日、フランクフルトで開催した定例理事会で市場予想通り政策金利にあたるリファイナンス金利を0.05%で据え置きました。上限金利の限界貸出金利も0.30%で維持。下限金利の中銀預金金利も、市場予想通りマイナス0.3%で維持しました。
会合後に幕開けする恒例の記者会見で、ドラギ総裁はスーパーマリオの名誉挽回を果たします。
「金融政策を見直し、恐らくは3月に開催する次回会合でスタンスの再考が必要になるだろう」
と宣言したんですね。事実上、3月10日予定の理事会で追加緩和という名のバズーカ砲を放つ態勢を整え始めた格好。おかげ様で株高・債券高・円安(リスク・オン相場に反応)の展開を迎えたものです。
記者会見の冒頭でドラギ総裁が読み上げる声明文そのものが、追加緩和へのプレリュードといっても過言ではありません。
・足元で経済指標が回復しつつあるものの、エマージング国の成長見通しに対する不透明性の高まり、商品市場の変動、地政学的リスク成長へのダウンサイド・リスクが強まったと認識
・原油安の二次的影響が発生する潜在的リスクに懸念
・金融政策の見直しの必要性を表明
・政策の選択肢を確保するために技術的な準備に着手
・インフレ2%手前という参照値への達成という使命に則し政策対応する意欲に上限はないと発言
BNPパリバのケン・ワトレット欧州担当主席エコノミストは、記者会見の冒頭で読み上げる声明分の内容について理事会メンバーの全会一致でなければならない点を挙げ「非常にハト派寄りだった」と指摘。その上で、以下の追加緩和を予想しています。
1)スタッフ経済見通しでインフレ予想を下方修正
2)中銀預金金利を10bp引き下げ
3)資産買い入れプログラムを変更、QE期間延長の可能性が高いが一段と踏み込んだ手段を講じる場合も
重要なポイントは3)で、QE期間の延長については「2015年12月会合のように6ヵ月とし現在の2017年3月までから2017年9月へ変更する」と見込みます。もちろん、これでは市場が満足する可能性が低い。ワトレット氏は資本割当比率の中断を通じ、買入資産不足の解消し市場の歪みを矯正するシナリオを描いていました。
バークレイズのフィリップ・グディン欧州担当主席エコノミストは、中銀金利の引き下げ及びQEの調整を含む新たな政策パッケージを発表する時期を「6月から3月へ傾きつつある」との考えを示します。包括案には「適格資産プールの拡大」を挙げ、投資適格級の社債などの組み入れを予想。QEの延長あるいは拡大については、例えば資本割当比率に応じた買取ルールの変更について言及しなかった点も、指摘していました。
いずれにしても、ドラギ総裁としては前回2015年12月のようにマーケットを失望させることだけは避けたいはずです。金融市場のボラティリティが急騰しており、緩和的な効果で景気とインフレの押し上げを目指すでしょう。思い切った決断は今後の選択肢を狭めるという諸刃の剣ながら、2012年7月会合で明言したように「できることは何でもする(whatever it takes)」の精神でバズーカ砲を発射させる可能性は見捨てておけません。
(カバー写真:ECB/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年1月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。