「真田丸」の大衆マーケティング

新田 哲史


▲「真田丸」はこのまま順調にヒットするか!?(公式サイトより)

どうも新田です。今夜で3回目を迎える「真田丸」ですが、初陣、第2陣ともに順調に戦果を上げております。

大河「真田丸」初回視聴率は19・9% 3年ぶり大台発進ならず(スポニチアネックス1月12日)

「真田丸」第2話視聴率は20・1%!初回上回り、3年ぶり大台超え(スポニチアネックス1月18日)
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2016/01/18/kiji/K20160118011877120.html

ここのところ、当たり外れの揺れが激しい三谷作品ですが、今回は「当たり」の方に行くのでしょうか。すでに私がカギと指摘した草刈さんの演技を評価する論評も多く、幕末よりは創作の自由度が高い戦国という題材との相性も予期したようにいいと思います。

それで、このまま「大河復活」を印象づけるような、久々の大ヒット作品になるのか。本当は先週末に書きたかったのですが、私がその作品の力が本物かどうかそれを占う指標としているのが第2回の視聴率です。かなり昔ですが、ある超有名刑事ドラマのプロデューサーだった方を取材した際に言われたのが「初回の視聴率は期待度が高かった分、第2回は下がるのが普通」というドラマ制作の“常識”です。実際、過去の大河作品のデータをみるとこちら。


前回の三谷作品「新選組!」以降、過去13作のうち、第2回の視聴率が初回よりも上回ったのは、わずか5作品。「真田丸」は見事にこの最初のハードルを乗り越えました。

ただし、本当にヒットした作品になるのかどうか、大河は始まる前はその伝統とブランドから芸能メディアでの露出が高いことを踏まえると、最初は作品が持つ本来の実力以上にご祝儀相場的に盛り上がってしまうバブル要素もあります。第2回が上がったからといって安心はまだできません。昨年の「花燃ゆ」の放映前まで歴代ワースト不人気作品(期間平均視聴率最低)として君臨した「平清盛」(2012年)も、第2回は上がっていたことに「へえ」と意外な発見もあります。まあ、結局、1年間で20%を超えたのは「功名が辻」(2006年)と「篤姫」(2008年)の2作品しかなく、「真田丸」が本当の荒波を越えていけるかはここからということでしょう。

テレビ以外にも娯楽が多様にある上、スマホ世代はテレビよりもネットの動画に走るなどなど、可処分時間の奪い合いになっていることは言わずもがな。「独眼竜政宗」とか「武田信玄」がやっていたバブル期の頃のように、視聴率40%みたいなお化け数字を求めるのは時代が違うので、「大ヒット」の基準を「25%」としましょうか。

マーケティングでいう「キャズム」を越えるためにはどうすればいいか、いろいろ考えていたんですが、選挙に例えてみると、実は「大河ドラマ」のマーケティングはわかりやすい。

大河は「地盤」、つまり、その年の題材にゆかりのある地域(「真田丸」の長野・上田市や大阪市)の住民のハートは掴みやすい。沖縄を舞台にした「琉球の風」(93年)は本土では視聴率が伸び悩んだものの(期間平均17.3%)、地元・沖縄ではたしか30%を超えていたらしいんですよ。

そして重要なのは「看板」。これは題材に取り上げ得る武将など主役の登場人物の知名度が高いかどうか。信長・秀吉・家康および、その周辺の重要人物はもう鉄板なわけで、今年の真田家もこの範疇に入るので看板は強い。逆に昨年の「花燃ゆ」は、主人公が吉田松陰の妹ってくらいで、準主役の楫取素彦(初代群馬県令)も放映当初は「え?誰?」って感じだったので、苦戦は必至だったと思います。なお、「看板」は作家にも当てはまり、今年は三谷幸喜というブランドがあり、三谷ファンも最初から呼び込めます。

選挙で言う「3バン」で組織票をしっかり固め、選挙で言う無党派層、つまりドラマではいえば普段は「大河を見ない」固定ファン以外まで支持を広げられるかどうかが、「大ヒット」の試金石になると思います。その意味では、近年これができていたのが「篤姫」で、宮崎あおいさんの起用により、今まで大河ドラマを見なかったF1層を中心にした新しい顧客を開拓できたのが成功の要因とされています。

はたして、「真田丸」はどうなりますでしょうか。草刈さんの昌幸が、どんどん丹波さんのような感じがしていて、私のように「真田太平記」を見ていた固定歴史ファンの心は掴んでいると思います。あとは、リアルやSNSによる口コミで、どこまで広げていけるか、じゃないでしょうか。
ではでは。

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アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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