マスコミが切り取る数分間が持つ、とても不思議な力 --- 選挙ドットコム

「なんか自民党、感じが悪いよね」

政治家が国民をどう見ているのかを、これほど明確に表した言葉はありません。
1日に数分間だけ目にするマスコミの報道によって「なんか感じ良いなあ」と思われれば政権を取れるし「なんか感じ悪いなあ」となれば政権を失うことになる。私たち有権者がその程度の理由で投票していることを、政治家は見抜いているのです。

先週にわかに明るみに出た甘利氏の金銭授受疑惑問題は、28日の大臣辞任にまで発展しました。
大きく報じられているので「なんか政治の世界は汚いっぽい」と思いたいところですが、本当にそうでしょうか。
マスコミが切り取る数分間は、何を照らし出し、何を覆い隠しているのでしょうか。


▲2015/11/11 参院予算委員会閉会中審査

十数年前から、政治家はマスコミが切り取る数分間に腐心してきた

国民から「感じが良い」と思われるための自民党のメディア戦略は、小泉純一郎元首相まで遡ります。(参考・引用は『メディアと自民党』)

小泉元首相は、「日々のぶら下がり取材を朝夕の2回に定例化し、それまで内閣記者会に加盟できていなかったスポーツ紙の加盟を認めて」、「自民党をぶっ壊す」「改革なくして成長なし」など印象的なワンフレーズを多用するなど、マスコミが切り取る数分間に腐心していました。

「なんか自民党、感じが悪いよね」発言は、こうした流れの中で出てきたと考えられます。
この発言は、自民党の勉強会でメディアへの威圧的発言が相次いだことに対し石破大臣が警笛を鳴らしたものでした。

要するに、「国民のゴキゲンを損ねないように気を付けようね」ということです。
政治家と国民の関係を鋭く表した言葉に、(それが現実だとわかりつつも)カチンときたのですが、驚いたことに、国会周辺で抗議活動を行う人たちが「なんか自民党、感じ悪いよね」というプラカードを掲げていました。どのような気持ちで掲げていたのかはわかりませんが、もし「まさにその通り」ということなら違和感を覚えます。「なんか最近の自民党、感じ悪くない? 国会前で抗議しないと!」というノリなのかと思ってしまいます。

「一を聞いて十を知る」愚か者

先週から甘利大臣の金銭授受疑惑が報じられています。過去10年間に「政治とカネ」問題で辞任した大臣をまとめました。

そのほか、陸山会事件(2009年)、徳洲会事件(2012年)、渡辺喜美氏による8億円借入問題(2014年)などが記憶に新しいと思います。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだと思いますが、参考までに、2013年の日本における収賄事件は64件で贈賄事件は62件だったそうです(日比谷ステーション法律事務所)。

今回の報道は、「甘利大臣とその秘書が金銭授受をした」という一つの事実を照らし出しているに過ぎません。

しかし私たちは今回の報道によって「なんか政治の世界はやっぱり汚いなあ」と知ったようなことを言います。「一を聞いて十を知る」愚か者なのかもしれません。

映画でもドラマでも「汚くて黒い」とされる政治の世界は、案外、普通の世界です。
汚い人もいれば、バカ真面目に働いている人もいます。パッとしない人がいたかと思えば、キラキラ輝く人もいます。イヤな人もいれば、応援したくなる人もいます。

「政治とカネ」報道は、こうした“普通さ”を全てまとめて覆い隠してはいないでしょうか。
マスコミが切り取る数分間が、「なんか感じ良い(悪い)」をつくっていると思いますが、その数分間には、切り取られなかった事実をすべて無かったことにしてしまう不思議な力があるように思うのです。

ゴリ(仮名):参議院議員秘書
1992年生まれの新米秘書。国立大卒。ジャーナリストを目指しつつ政治の世界で奮闘中。”22歳の議員秘書にしか書けない政治”で、選挙をオモシロクしたい。(※特定の人物・団体が、恩恵または損害を被る記事は絶対に書きません。実名は非公表とさせて頂きます。)


編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年2月1日の記事『マスコミが切り取る数分間が持つ、とても不思議な力(永田町の洗礼を受ける22歳⑪)』を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。なお、アゴラでは寄稿者は原則実名制とさせていただいていますが、この連載は配信元が身元確認の上、契約している筆者であること等を考慮し、匿名原稿を掲載しました。ご了承ください。