連載「テロ」②誰がテロを起こすのか --- 星野 了俊

○誰がテロを起こすのか

テロの行為主体としては、第一に個人、革命組織や宗教集団、民族団体などの非国家主体が挙げられる。「テロ」と聞いて多くの人が想起するイメージは、これらの非国家主体が国家(政府)に対して行使する反政府テロ・反体制テロではないかと思うが(※)、これらのテロは革命闘争、民族運動、宗教対立などの紛争とも密接に関わるものである。

(※)政治的企図の下に無差別テロの形態がとられれば、実際に物理的な被害を受けるのは一般市民である。

無論、非国家主体が別の非国家主体を対象にテロ行為を仕掛ける場合もあるが、そのようなテロの背景には価値観やイデオロギー、宗派などの対立がはっきりと見てとれることが多い。

一方、国家が非国家主体、或いは国家主体に対して行使するタイプのテロは、国家テロと呼ばれる。

国家が非国家主体に対して行使する国家テロは、たとえばシリアのアサド政権が、反体制派に対し2013年8月に行ったとされる化学兵器による大量殺戮に見られるような、独裁政権による恐怖政治の手段として用いられることが多い。

また、国家が別の国家を対象とするテロのうち、戦時に行使されるものを戦術テロ、平時もしくは停戦・休戦時に行使されるものを戦略テロと区別することもある。戦術テロは主に戦闘において敵を攪乱するために用いられ、戦略テロは戦争の代替、もしくは強制外交の一手段として用いられる。

国家テロ、特に戦略テロは国家戦略の一種であると見なすことができるが、だからこそ、それが国際社会に明るみになってしまえば、政府に対する国際社会からの反発や信用の失墜は避けられない。つまり戦略テロに伴う政治的リスクは極めて深刻であると言える。

そのような政治的リスクを回避するために、テロの実行者と黒幕である政府との関係はどこまでも厳重に秘匿されなければならない。ゆえに戦略テロは、たとえば対立国の反政府組織に資金援助や武器供与を行ってテロを支援する国家支援テロや、テロリストやテロ組織を雇ってビジネスライクに利用する国家指揮テロなどの形態がとられることとなる。

(つづく)

星野了俊 戦略・安全保障アナリスト/コンサルタント
1988年生まれ。防衛大学校人文・社会科学専攻国際関係学科卒。
B’zとウイスキー、それとドストエフスキーが好きです。

個人ブログ「戦略とか安全保障とか」http://akthos.hatenablog.com/


編集部より:この投稿は、星野了俊氏のブログ 2016年2月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「戦略とか安全保障とか」をご覧ください。