アイオワ州党員集会以後の共和党予備選挙を考察する

アイオワ州でテッド・クルーズの勝利、トランプは2位、ルビオは1位

テッド・クルーズ氏がアイオワ州党員集会でトランプ氏を差し切って得票率1位を獲得しました。直前の世論調査で両者の差はトランプ氏の1ポイントリードという状況であり、保守派が多いアイオワ州で運動力があるクルーズ氏が3ポイント程度の僅差で勝利したことは妥当またはトランプ氏にやや苦戦したと評価すべきでしょう。

クルーズ氏の勝利によって州内99群を網羅的に行脚する2012年にサントラムが実践した地域密着型の選挙手法の有効性が再び証明されたことになります。保守派に属する、キリスト教福音派、Tea Party Patriotsら茶会運動、National Review誌やグレン・ベックら保守派著名人などが直前期に支持を表明したことも大きなインパクトを与えたものと推測されます。

ドナルド・トランプ氏は下馬評の支持率1位から陥落し、実際の得票率では2位の立場に甘んじることになりました。しかし、同州でボランティアを動員した地上戦をほとんど展開していないにもかかわらず、約4分の1の得票率を獲得したことでトランプ氏の影響力が共和党内で無視できないものであることを改めて立証しました。

今回のアイオワ州党員集会で最も注目すべきことは、得票率3位のマルコ・ルビオ氏が予想以上に高い数字を獲得したことです。アイオワ州はキリスト教福音派などの社会的保守派の影響力が非常に強い地域であり、マルコ・ルビオ氏が比較的苦手とする有権者層が多数を占める地域です。それにも関わらず、1位クルーズ・2位トランプと比べても遜色ない支持を獲得したことは大きな意味があります。

ちなみに、昨年から一部の日本人有識者の間で有力視されてきたブッシュ氏は全く振るいませんでした。彼らがブッシュ推しをいつの間にか撤回してルビオ推しになっている風見鶏ぶりには甚だ呆れます。今後ブッシュ氏は撤退に向けた調整を行っていくことになるでしょう。

「アイオワを制した者は、ニューハンプシャーを制することはできない?」というジンクス

クルーズ氏は年明けから選挙運動のリソースをアイオワ州に集中投下してきました。アイオワ州での1位獲得はクルーズ氏の生命線であり、クルーズ陣営の立案した作戦は功を奏したと言えるでしょう。今後の予備選挙の舞台は第2ラウンドのニューハンプシャー州予備選挙に移ります。

保守派が多いアイオワ州・リベラルが多いニューハンプシャー州では有権者の投票傾向が大きく異なります。そのため、アイオワ州での勝者であるクルーズもニューハンプシャー州の世論調査ではあまり振るっていない状況です。

近年、アイオワ州とニューハンプシャー州の両方で1位を獲得せずに予備選挙で勝利した人物は民主党のビル・クリントン元大統領のみとなっています。共和党候補者ではアイオワ州とニューハンプシャー州の両方を落として予備選挙を勝ち抜いた人物は皆無です。

そのため、トランプ氏とルビオ氏はニューハンプシャー州における2枚目の切符の獲得競争に全力を注ぐことになります。号砲が打ち鳴らされた共和党の予備選挙レースは激しさを増すばかりです。

テッド・クルーズへの主流派メディアによるネガキャンの集中砲火が始まるか?

クルーズ氏がアイオワ州で得票率1位を獲得したことで、トランプ・バッシングに尽力してきた主流派メディアがクルーズへのネガキャンの集中砲火を開始するものと予想します。

元々米国の主流派メディアはクルーズ氏が属する保守派陣営に対して厳しい姿勢を取り続ける傾向があり、今回の予備選挙でもトランプ氏の支持率を一時的に抜いたベン・カーソン氏を自伝中のエピソードの嘘疑惑などによって実質的に葬った経緯があります。

カーソン氏の支持率急落後はトランプ氏が全米支持率でトップであり続けたので、クルーズ氏は保守派であるにも関わらず、主流派メディアのネガティブキャンペーンの対象になりにくい環境優位を享受してきました。しかし、アイオワ州党員集会で得票率トップを記録したことで、今後はトランプ氏に代わる共和党からの指名に最も近い保守派候補者としてメディアによるバッシングが本格化するものと思われます。

クルーズ氏がカーソン氏やトランプ氏に行われたような激しい攻撃に耐えられるか否かは不明であり、クルーズ氏の選挙の強さに対する真価は「ここ」から問われる事になります。

主流派のマルコ・ルビオの追撃、クルーズとトランプがどのように対抗していくのか

冒頭でも触れた通り、トランプ氏とクルーズ氏の順位についてはそれほど驚きはありませんでした。最も大きな衝撃は、主流派候補者であるマルコ・ルビオ氏が保守派が多いアイオワ州で極めて高い支持を得たことです。

そのため、マルコ・ルビオ氏に対する主流派の期待が一気に高まることで同氏の支持率が大幅に上昇していくことが予測されます。現在までのニューハンプシャー州の世論調査で、ケーシック、ブッシュ、クリスティー、ルビオで割れている主流派の支持率がルビオ氏に集約されていく可能性が出てきています。

一方、昨日までの世論調査では、トランプ氏はニューハンプシャー州において圧倒的にリードしています。トランプ陣営は元々アイオワ州はほとんど重視しておらず、最初からニューハンプシャー州での勝利に重点を置いています。ただし、アイオワ州で勝利を逃したことで期待値の剥離がどこまで進むかは予想が出来ません。トランプ支持者はトランプ氏への忠誠度が高い傾向がありますが、初戦で躓いた中で勢いを維持できるかどうかがポイントとなります。

また、クルーズ氏は、ニューハンプシャー州での連勝にこだわる必要はないので、同州では保守派候補者の中で最上位の地位をキープするだけで良いと思われます。クルーズ陣営はアイオワ州での手堅い選挙戦略から推察するに、次回の選挙戦略上の力点は保守派が多いサウスカロライナ州での勝利ということになるでしょう。

したがって、第二戦のニューハンプシャーはトランプVSルビオら主流派という構図になるかと思われます。トランプ氏は保守派や主流派と彼らの得意とする州でその都度正面衝突することになり、なかなかハードな選挙対応を強いられていると言えるでしょう。

アイオワ州での結果を受けて、トランプ、クルーズ、ルビオの3つ巴の争いはしばらく続くことになりそうです。今回のトランプ首位陥落によって米国大統領選挙は更に面白い展開になってきました。

渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
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