複数の都道府県を1つの選挙区とする「合区」が今夏の参議院選挙で初めて採用される。対象となるのは「鳥取・島根」と「徳島・高知」で、いずれも定数は1。憲政史上初の参院議員空白県はどこになるのか。鳥取、島根の“永遠のライバル”対決の行方は。
一票の格差問題を受け合区を初めて導入
参議院の総定数は242。参院議員の任期は6年で、3年ごとに半数ずつ入れ替える。改選となる121のうち48は比例代表で、73を選挙区で選ぶ。比例代表は全国単位で政党か個人名を書かせ、政党の得票数で議席数を割り振り、個人の得票数で当選者を決める。
戦後、日本国憲法に基づいて1947年に設立されて以降、参院選の選挙区は都道府県を単位としていた。前回2013年の参院選では定数が1から5。人口の少ない県では1人、最も多い東京では5人が選ばれている。
だが、最高で4倍を超える「一票の格差」を司法が問題視。最高裁が2010年と2013年の2回の参院選について「違憲状態」と判断し、それまで及び腰だった各党が対策に乗り出した。そして地方選出議員が反対する中、ようやく4県の「合区」を決めた。
各選挙区の構図とは
今年、改選を迎える現職議員は鳥取県が自民党で当選し、現在は日本の心を大切にする党(旧次世代の党)に所属する浜田和幸氏で、島根県は自民党の青木一彦氏。徳島県は自民党の中西祐介氏と、高知県は民主党の広田一氏である。
自民党は鳥取・島根で現職の青木氏を公認。徳島・高知でも現職の中西氏の再選を目指している。対する民主党は鳥取・島根で、民主党政権で消費者庁長官を務めた無所属の福島浩彦氏を推薦。徳島・高知では現職の広田氏が不出馬を表明したことから、無所属で立候補する弁護士の大西聡氏を推薦することとした。
いずれの選挙区も共産党が候補を立てているが、野党による選挙協力の一環として候補の取り下げを検討中。実現すれば与野党一騎打ちの図式となる。
ただ、有権者にとって今回の参院選は政党の枠組みだけでなく、出身地の要素も重要だ。これまでは最低でも全都道府県に2人の参院議員がいたが、今回の選挙を落とせば片1人減る。次回も続けて落とせば参院議員が1人もいない「空白区」になりかねないからだ。特に鳥取・島根は“永遠のライバル”だけに、勝負の行方には注目が集まっている。
永遠のライバル鳥取・島根
本州の最西端に位置し、県境を接する鳥取県と島根県。週刊ダイヤモンド誌が各都道府県民に「負けたくない都道府県」を聞き、全体に占める割合を調査したところ、鳥取・島根両県民は平均86%が互いをライバル視していることが分かった。
これは富山・石川の61%、岡山・広島の58%を引き離し、断トツのトップ。鳥取・島根は日本一住民同士が競い合う都道府県といえるのだ。
人口数は鳥取が全国最少の57万人で、島根がワースト2位の69万人。一方で鳥取砂丘を抱える鳥取の方が知名度は高いとも言われる。
検索サイト「google」で47都道府県を検索してみたところ、ヒット数は島根が41位の3350万で、鳥取は42位の3300万。ブランド総合研究所の「都道府県別魅力度ランキング2015」は鳥取が38位で、島根が40位。規模や知名度で比べても一進一退の攻防と言ったところだ。まさしく永遠のライバルといった様相だ。
党で選ぶか、地域で選ぶか
鳥取・島根選挙区に立候補する自民党の青木氏は島根県出身、対する野党系候補の福島氏は鳥取県出身である。自分の支持する政党の候補に投票するか、それとも自分の住む県の出身候補に投票するか。有権者にとっては悩ましい選択になるだろう。
有権者数で比べると島根の方が鳥取より10万人超多く、政党支持率を比べればすべての野党を足しても与党には届かない。今のところ島根の青木氏が有利に見えるが、投票日当日になるまでわからないのが選挙。野党及び鳥取県民の「巻き返し」に注目したい。
山本洋一:元日本経済新聞記者
1978年名古屋市出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。政治部、経済部の記者として首相官邸や自民党、外務省、日銀、金融機関などを取材した。2012年に退職し、衆議院議員公設秘書を経て会社役員。地方議会ニュース解説委員なども務める。
ブログ:http://ameblo.jp/yzyoichi/
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年2月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。