うっかりして知らなかったが、北朝鮮は今年5月から国名「朝鮮民主主義人民共和国」を意味する英語名をこれまでの「Democratic People’s Republic of Korea」から「Democratic People’s Republic of Corea」に変更するという。
「え、どこが違うの」と聞かれそうだが、ゆっくりと文字を追うと「Korea」が「Corea」と変わっている。発音上は両者は同じだろう。意味は違うのか。そうでもない。それでは前者の「Korea」から後者の「Corea」に改名した理由は何か。
海外中国反体制派メディア「大紀元」によれば、「金日成総合大学の朴学哲氏の論文によれば、元々北朝鮮の英語名は「Corea」だったが、北朝鮮が日本の植民地だった時代、日本はアルファベット順に見て『Japan』の『J』が『Corea』の『C』よりも後ろにある事を不満に思い、『Corea』から『Korea』に改名した」というのだ。その説明が正しいとすれば、なんと子供じみた国名変更理由だ。
基本的には「Korea」であろうが「Corea」であろうが大きな変化はないのだから、どうでもいい問題だ。それにしても、金正恩第1書記は自身の独自性を大切にする独裁者だ。祖父・金日成と父親・金日正日時代に紀元を「主体」に変更したが、正恩氏は昨年8月、とうとう「時間」まで手を付け、韓国より30分時差の「平壌時間」を導入したばかりだ。
興味深い点は、今回の英語名の国名を「K」から「C」に変更する時も、「平壌時間」導入の際も、「日本帝国主義云々」がその理由として常に登場することだ。北の朝鮮中央通信(KCNA)は平壌時間の導入の時、「最高人民会議常任委員会はわが国の標準時間を定め、平壌時間と命名する政令を発布した」と報じ、その理由を「日本帝国主義者は長い歴史と文化を誇っていたわが国の領土を踏みにじり、民族抹殺を繰り返し、わが国の標準時間まで奪っていった」と歴史的背景を紹介し、「祖国解放70周年を迎え、30分時差導入の決定を下した」と説明していたほどだ。北の独自色とは、「日本帝国主義時代前」への回帰というわけだ。
これまでのところ、「平壌時間」導入で問題が生じたとは聞かないが、北の3代の独裁者はなぜ意味のないことに拘り、自分のカラーを出そうと腐心するのだろうか。そのような些細なことに心を砕かず、国民の生活向上に全力を傾けなければならないのではないか。明らかに、国家目標のポイントがずれている。
祖父が国民に向かって「国民が白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにする」と約束したが、3代目の独裁政権に入った現在もその基本的な国民の願いは果たされていない。
その結果、南北の国民の平均寿命が大きく違ってきた。韓国統計庁の「2015年北朝鮮主要統計指標」によると、韓国の昨年の平均寿命は男性が78.2歳、女性が85.0歳、北朝鮮は男性が66.0歳、女性が72.7歳で、南北の差は男性が12.2歳、女性が12.3歳だ。南北間の寿命の格差についてはこのコラム欄で報告済みだ(「北の金王朝は国民の寿命を奪った」2015年12月22日参考)。
ちなみに、韓国は正式は「大韓民国」と呼び、英語名では「Republic of Korea」だ。欧米では南北の英語名から両国を取り違う人も少なくないと聞く、そこで、金正恩氏にアドバイスしたい。国名を「朝鮮民主主義人民共和国」から「民主主義」を取り、その代わり「主体」を入れ、「朝鮮主体共和国」とすればどうか。理想は「民主主義人民共和国」を完全に削除し、「朝鮮主体国」にすれば、現状を最も反映しているうえ、南北を取り違う人も少なくなるのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。