どうも新田です。球界、なかでも高校野球のガバナンスというのは「裁量主義の権化」みたいなところで、記者時代から常々疑問を感じておりました。辛辣な記事も書いて、記者時代には高野連から抗議文を勤務先に送られてしまい、そのことが朝日新聞の社会面沙汰になった過去を持つ私なんですが、この清原選手に関するニュースを見たとき、「あー、またいかにも日本的な感情ベースのジャッジメントだね」と思った次第です。スポーツ紙から引用と思ったけど、どうせなら“憎っくき”朝日にしましょうか。
清原和博容疑者ゆかりの品、展示取りやめ 甲子園歴史館
清原和博容疑者逮捕を受け、兵庫県西宮市の甲子園歴史館は4日、清原容疑者のPL学園高時代のユニホームと帽子、バットの計3点の展示を取りやめた。同館は「子どもの入館者も多く、教育的な配慮が必要」としている。同館によると、清原容疑者に関係する展示品3点は、「高校野球ゾーン」のガラスケースで常設展示されていた。ほかにも、清原容疑者が写る写真パネルや映像があるが、金具で壁に固定されているなど簡単に取り外せない構造のため、取り扱いを今後検討するという。
(朝日新聞デジタル 2016年2月4日21時42分)
甲子園の金字塔って“取り消し”可能なの?
野球ファンならご案内のように、甲子園で国民的スターとなった清原選手が打ち立てた大会での金字塔は「規格外」。甲子園通算91打数40安打(打率.440)というのもすごいが、通算本塁打13は、2位の桑田選手や元木選手(上宮)の6本の倍。特に夏の一大会でマークした5本は、すさまじい。当時はラッキーゾーンもあったし、今後この記録を破る高校生スラッガーは出てこないと思います。
で、まあ、その甲子園歴史館が清原選手の歴史的記録を叩き出したバットを撤去するという。言わずもがな、「高校卒業30年後」に違法薬物使用疑惑で逮捕された影響なわけですが、高校時代の清原選手が薬物を使っていたわけではないのに、記録のシンボルであるバットを撤去して「なかったこと」のようにいきなりしているのが、釈然としないんですよね。
「記録より記憶」な“教育的配慮”って?
仮に甲子園時代に薬物を使っていたことが発覚したというのであれば、遡って撤去するのはもちろん、記録の取り扱いも見直したっていい。しかし、現時点では、その可能性は報道されていないし、現実問題、あの頃の清原選手は容疑者ではない。ところが博物館側は、野球少年らの来館による「教育的な配慮」を理由にしている。
そのまま展示していたら、もちろん「あー、やらかしちゃった清原のバットね」と好奇の目にさらされてしまうだろうが、モノには罪はないし、バットが叩き出した歴史的記録に疑義が生じるわけでもない。もし子供や意地悪な大人に「なんで、あんな奴のバットをいまでも展示してるんや?」とクレームつけられたら、「高校時代の記録と事件は全く別物」と突っぱねればいいだけのこと。スポーツの世界で、記録は、歴史そのもの。後身のアスリートにとって先人を追い抜くための指標であり、それが新たな偉業と歴史を紡いでいくための根幹であり、何人たりとも弄ることができない「神聖」なものじゃないでしょうかね。
賢い子供であれば、一時の出来事に左右されることなく、アスリートの情熱で積み上げてきた記録を、淡々と冷静に残していく、「歴史の重み」というものをむしろ勉強させる機会になると思いますがね。今回の甲子園歴史館の“スピーディーな判断”(棒)というものは、冷静でロジカルな検証に後ろ向きで、時には原理原則を軽視してでも「臭いものはフタをする」という球界の対処療法思考がまた現れたような気がしております。「教育的配慮」というのは所詮、「記録より記憶」を優先し、後難を恐れただけの思考停止じゃないでしょうか。
むしろプロ後期の薬物疑惑は大丈夫なの?
それよりも、個人的に危惧を覚えるのはプロ入り後の清原容疑者の立ち回り。現役時代、特に巨人移籍後から暴力団との関係が週刊誌やネットで取りざたされるし、今後の捜査や裁判の進展次第で、憶測されているような現役時代からの薬物使用が「認定」されたときのほうが、重大なリスクだと思いますがね。西武時代に薬物防止キャンペーンのポスターに出た際の「覚醒剤打たずにホームラン打とう」のコピーがネタになって嘲笑されてますけれども、万が一、「覚せい剤打ってホームラン打った」なんて事実が出てきたら、もう誰も笑えません。
もっとも、引退した8年前の薬物使用は時効なんで、捜査当局にとって優先的な調べ対象ではないし、物理的にも立証は困難。しかし、今後起訴されれば第1回の公判の冒頭陳述で、被告人の薬物使用の遍歴も言及されるでしょうから、その内容に過敏に反応してしまう球界・芸能関係者もいるのではないかと、激しく推察しております。ではでは。
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新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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